【小倉正男の経済コラム】プーチン大統領「控えめにいっても不愉快」の苦境

 ウクライナの反転攻勢が凄まじい。9月以降、ウクライナは東部、南部で627集落を奪還したと発表している。ハルキウ州502、ドネツク州43,ルハンシク州7、ヘルソン州75集落がその内訳である。

 ゼレンスキー大統領は、「領土の一体性を回復する」と宣言。東部、南部、そしてクリミアのすべてを奪還するとしている。「勢い」はウクライナに傾いている。

■「控えめにいっても不愉快」と心境を晒す

 一方のプーチン大統領だが、さすがに苦境を認めている。
 旧ソ連の構成国による独立国家共同体(CIS)首脳会議でのロシアメディアとの一問一答、そのやり取りが興味深い。

 「プーチン大統領、後悔していませんか」
 メディアの質問は、ウクライナ東部、南部でのロシアの電撃的な敗退を指している。ズバリ、肺腑をえぐるような問いをシレっと投げかけている。ロシアはすでに9万人という膨大な兵員死傷者を出している。国民から反感を惹起する「部分的動員令」発令に追い込まれ、通貨・株式・国債のトリプル安に陥っている。

 「いや、はっきりさせておきたい。いま起こっていることは控えめにいっても不愉快だ。しかし、遅かれ早かれ同じことが起きていたし、最悪の状況になっていただろう」

 プーチン大統領は「後悔」を否定している。確かに「後悔している」とは、仮に思っていたとしても吐けない。ただ、(こんなはずではなかった)という感は拭えない。百戦錬磨のプーチン大統領にしては、絶対に見せないはずの心境を晒した発言といえる。

■当面の焦点は「ヘルソンの戦い」

 ウクライナは東部、南部で反転攻勢を進めている。とりわけ南部ヘルソン州での戦いが緊迫化の見通しとなっている。

 ヘルソン州を実効支配している親ロシア派幹部は、一部住民にクリミアなどへの退避を呼びかけている。親ロシア派幹部はロシアに住民の退避に対する支援を要請している。そのうえ銀行、年金機関の従業員、資産をクリミアなどに移動させている。ロシアはどうやらヘルソン州を持ちこたえるのは容易ではないとみている。

 当面の焦点は、ウクライナによるヘルソン州の州都ヘルソン市奪還の動向だ。早ければ10月後半にヘルソン市を奪還する可能性が見込まれている。ウクライナがヘルソン市を奪還すれば、ロシアにとっては“目も当てられない敗北“の象徴になると報道されている。プーチン政権としては、追い詰められる事態になりかねない。

■東部、南部で「敗北」を突き付けられるか

 プーチン大統領によるウクライナ東部、南部4州の“併合”も裏目になりかねない。プーチン大統領は、9月末に偽りめいた「住民投票」を実施して、東部、南部のルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン4州のロシア併合・編入を強行している。(しかし、ウクライナの反転攻勢でロシアの実効支配地域は後退・減少が現実になっている。)

 2014年、プーチン大統領はクリミアを軍事制圧し、やはり「住民投票」を経てロシアに併合している。東部、南部4州併合は、クリミア併合の手口をそのまま踏襲している。いわばロシアの既成事実づくりだが、その怪しげな手口に正当性は見当たらない。反対にウクライナのゼレンスキー大統領の東部、南部4州、そしてクリミア奪還に正当性を与えている。

 ロシアは、「部分的動員令」で兵員補充に動いたが動揺を隠せなくなっている。前線では戦車、装甲車を多数喪失し、ベラルーシュに戦車、装甲車、火砲などまで融通させている。動員兵にも防弾チョッキ、ヘルメット、迷彩服が行き渡らず、銃器など装備も錆びついたものになっている。わずか数日の訓練で前線送りでは、言葉を控えても恐怖、あるいは悲惨でしかない。

 おそらくウクライナにとってはここからが正念場になる。東部、南部でどこまでロシアを押し戻して追い詰めることができるか。プーチン大統領のロシアに「敗北」を決定的に突き付けられるか。逆にいえばロシアはどこまで防御できるのか。プーチン大統領になるのか相手が変わるのか(予断は持てないが)、「和平」への動きはおそらくまだその先ということになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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