【どう見るこの相場】海運から造船へ、円高苦境を乗り越え日本の重厚長大産業が再浮上

■「MMGA」効果の造船株・海運株は「海の日」月間キャンペーン相場も加わり一段高を期待

 あと1カ月半後に8月15日を来ると、あの諸悪の根源となった「ニクソン・ショック」から54年となる。半世紀である。同ショックは、信認の揺らいだドルを防衛しようとして当時のニクソン大統領が、ドルと金の兌換を一時停止するとともに輸入課徴金も導入し、物価を凍結したことにより、株価はショック安、欧州の為替市場は軒並み閉鎖されるなど大混乱となった。このあとドルの切り下げなどがあったが、為替の固定相場制は支え切れず結局、変動相場制に移行して今日に至っている。これ以来、日本は常に円高圧力にさらされ市場開放、内需拡大を迫られ続け、現下の世界経済の不安定要因となっている「トランプ関税」も、この延長線上にある対日圧力にほかならない。

■ニクソン・ショックからの半世紀経て大変貌へ

 ニクソン・ショックにより日本の構造不況産業といわれた限界産業には大打撃となり、産業構造の大転換を迫られた。「重厚長大産業から軽薄短小産業へ」、「トンからグラムへ」、「ハードよりソフト」などのキーワードのもとに、産業政策のメインは、構造不況産業の不況脱出となり、業界再編や設備・人員削減の大リストラの嵐が吹き荒れ続けた。リストラの現場では、新聞記事にはなっていないが労使の衝突で血の雨が降ったなどというウワサさえ流れた。

 この半世紀にわたるマイナスを一気にプラスに転換した業界がある。海運業である。海運業は、もともと海洋自体が国際競争の場そのもので、円高は、バンカーオイル(燃料油)のコスト削減につながるが、それだけでは追い付かない大打撃となった。世界のどの港に入港する船舶でも、船体が最もきれいに整備されているのは日本船といわれていたのが、もうその面影はなくなったといわれたのもこの頃である。このため業界では、再編を進めるとともに仕組船や便宜置籍船の導入や賃金に安い外国船員を雇い入れる混乗船などにもトライした。

■海運大手3社に続け!造船株、再編と米国の後押しで変貌なるか?

 その効果が目に見えてきたのが、海運大手3社の日本郵船<9101>(東証プライム)、商船三井<9104>(東証プライム)、川崎汽船<9107>(東証プライム)が、2017年に3社のコンテナ船事業を統合する合弁会社オーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)を設立してからである。ONEは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な感染爆発)に伴う米国の駆け込み需要なども追い風に業績を伸ばして大手3社の業績を押し上げ、3社の株価は、相次ぐ業績の上方修正、増配、自己株式取得、株式分割などを材料に上場来高値を更新し、いまやマーケットではバリュー株の優等生の一角を占めるイメージチェンジしている。

 その「海」つながりで目下、イメージチェンジ期待が高いのが、造船株である。造船株は、大手が揃って相次ぐ造船部門からの撤退・分離、統合を進め、造船専業会社としてはかつて「瀬戸内造船」といわれた中堅造船の後塵を拝する状況となっている。その1社の今治造船が、前週末26日に住友重機械<6302>(東証プライム)、IHI<7013>(東証プライム)、カナデビア<7004>(東証プライム)、JFEホールディングス<5411>(東証プライム)の造船・艦艇部門を統合し、IHIとJFEHDが各30%を保有し大株主となっているジャパンマリンユナイテッド(JMU)の株式を追加取得して子会社化することを発表し、関連株が軒並み高する業界再々編成思惑も強まってきた。

■安保政策が日本の海事産業を牽引!米中対立が商機に

 折から米国では、トランプ大統領が、政治スローガンの「メイク アメリカ グレート アゲイン(MAGA・米国を再び偉大な国にする)」を実現すべく雇用吸収力の大きい自動車、鉄鋼、造船などの「重厚長大産業」の再生に力を入れており、最大の軍事的脅威である中国を意識した安全保障政策のために、中国船籍船の入港規制や、米国の造船業の再生・再建を打ち出したばかりである。呼応する日本は、トランプ流でいえば「メイク マリタイム グレート アゲイン(MMGA・海事産業を再び偉大な産業にする)」ということになり、なお技術的、産業的に優位にある日本の米国へのサポートも期待され、次世代船舶や砕氷船の共同開発などのビッグプロジェクトがこれからスタートするはずである。

■7月は造船・海運株が主役の座を奪うか

 7月は、7月21日が「海の日」が国民の祝日に制定されてからフシ目の30回目に当たり、全国各地で関連キャンペーンが開催される「海の月間」でもある。またマーケット的には、9日が「トランプ相互関税」の執行猶予期間の期限、7月29日、30日が米国の連邦準備制度理事会(FRB)の公開市場委員会(FOMC)、同じく30日、31日が日本銀行の金融政策決定会合とビッグイベントが続く。7月相場の主役との見方の強い半導体株などのハイテク株と同時並行的に、「海の日」関連の月間キャンペーンの盛り上がり効果も期待して造船・海運関連株にアプローチするのも一考余地がありそうだ。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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