【どう見るこの相場】日銀のETF買い見送りとその影響、自己株式取得の新たな価格発見機能への期待

■「売られ過ぎシグナル」を発信の自己株式取得株は浮上余地をアピール

 マーケットの現在の投資家心理は、相場都々逸の文句の「売れば二上がり、買や三下がり、切ってしまえば本調子」に近いところにあるようにみえる。日米の中央銀行の金融政策の方向性が異なって、半導体株と銀行株が株高を競うバトルを続け、半導体株が急騰すれば銀行株が売られ、反対に銀行株が軒並み高となれば半導体株が失速するなど振り回されてきたが、あろうことか半導体株も銀行株もがともに急落する共倒れとなったからだ。たまらなくなって手仕舞おうとしても、今週の週明以降に相次いで日米中央銀行の政策決定会合が開催予定で、とくに前週末以来、日銀の金融政策正常化観測で持ち切りなものの、何が起こるか不透明でもしかしたらこれを境に本調子になるのではないかと期待と警戒がない交ぜとなって、身動きが取れなくなっているのに違いない。

■ETF買い見送りの衝撃

 しかも間の悪いことに、日本銀行の「心変わり」も重なってしまった。日本銀行の黒田東彦前総裁の異次元金融緩和策の「黒田バズーカ」以来、東証株価指数(TOPIX)が、日々の前引け段階で2%下落すると必ず後場に日銀のETF(上場投資信託)買いが入るのが暗黙のルールとなっていたが、突然見送りとなったのである。前週週明けのちょうど1週間前の11日のことである。この日は、TOPIXが前引けで2.25%となったが、待てど暮らせど日銀のETF買い入れはなく、この喪失感も手伝い日経平均株価は、868円安と年初来最大の下げ幅となった。

 日銀が買い入れたETFの含み益は、今年2月末現在で約34兆円に膨らんだと推定されており、少々の株価下落ではナンピン買いの必要はさらさらない。含み損が懸念されている国債の買い入れは、マイナス金利解除後も継続と観測されているのとは真逆である。この日銀の「心変わり」は、相場感の喪失にもつながる。その後買い入れ終了も観測報道された日銀のETF買いは、売られ過ぎのシグナルでその時点のTOPIXや個々の銘柄の底値感も示唆して一種の安心感を与えてくれていた。それは例えば大袈裟にいえば、資産バブルが崩壊して地価が、底なし沼の暴落状態に陥っていたときに登場した不動産投信(REIT)に似ている。崩壊した「土地神話」に変わり、不動産投資を所有から利用へとパラダイムシフトして、賃料による利回り商品として訴求したことで、地価の相場感が確立されて、さしものの不動産不況も出口に向かう一助となったのである。

■市場の新指標:自己株式取得の役割と展望

 日銀の価格発見機能が今後、不全になるとしたら代わりのバロメーターが求められることになる。まずこの代役に期待されるのは自己株式取得である。自己株式取得は、上場会社が発行している株式を市場から買い戻して財務指標を改善させる資本政策で、結果的に1株当たりの価値がアップして株主への利益還元策や需給改善策にもなる。とともに自社の株価が割安とする「株安アピール効果」もあって株価上昇を促進するとされている。利益還元策として増配、株式分割などとともにセットで組み込まれケースにあり、日経平均株価の4万円台乗せとともに株高競争に遅れを取ってはならじと設定件数、設定金額を増えてきており、高値波乱相場のなか昨年来高値まで買い進まれる銘柄も少なくない。

 この自己株式取得の取得株式数、取得総額から単純計算するだけで上場会社が自社の適正株価をどの水準としているかも読み解くことができるはずだ。そこで今週の当コラムでは今年年初来、自己株式取得発表を好感して買い進まれている銘柄のうちなお投資採算的に割安水準にある銘柄を、日銀に代わって「相場感」示唆の銘柄として取り上げることにした。取得総額の大きい銘柄、発行済み株式総数に占める取得比率の大きい銘柄、業績上方修正・増配・株式分割などを含むセット銘柄などバラエティに富んでおり、トライしてみる妙味はありそうだ。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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