【小倉正男の経済コラム】「物流の2024年問題」生産性は上がったか?

■小物商品ではダンボール箱物流が消滅

 「物流の2024年問題」、この4月1日からドラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されている。ずいぶん以前から取り沙汰されていた“働き方改革”だが、長い猶予期間を経てようやく実行されたことになる。

 トラック物流というと、荷台にはダンボールの箱がずっと重なっているのが通常だ。ダンボール箱がトラック物流の主役の座を担っている。何しろダンボールは丈夫である。モノも詰め込める。

 ところが、ここにきてEコマース用小物商品の物流では紙製「包装材」、あるいは紙製「包装袋」というものが、ダンボール箱に取って代わる動きを顕在化させている。丈夫さに特徴があるクラフト紙を使用した包装袋なのだが、急速にダンボールに代替している。

 紙製包装袋というものは以前から存在する商品であることは間違いない。しかし、この“オールドルーキー”が突然という格好でもてはやされている。当惑してしまうというか、不思議なこともあるものである。

■「空気」を運ぶ部分をカットする

 しかし、物流・包装業界に聞いたら納得の話だった。

 「ダンボール箱とクラフト紙製包装袋との競合はコストの問題ではない。トラックの積載効率から小型商品の物流では紙製包装袋のほうがフィットしている。物流の2024年問題から急激な変化が起こっている。紙製包装袋自体は目新しいものではないが、新需要を取り込んでいる」

 小型商品では、ダンボール箱に詰め込むと隙間ができる。ダンボール、紙などの緩衝材などを入れて隙間を埋めている。しかし、それではトラック物流では「空気」を運ぶ部分が大きくなる。紙製包装袋では、小型商品を詰め込んで緩衝材は入れるが、「空気」を運ぶ部分を少なくできる。

 つまり、小物商品のトラック物流では紙製包装袋のほうが積載効率を上げられる。「空気」を運ぶ部分をカットし、運べる数量を増やせる。その結果、ドラックドライバーの残業を減らすというわけである。逆にいえば、トラック物流は「空気」の部分を運んでいて長い残業に明け暮れしてきたことになる。

■小さな積み重ねが生産性を変える

 トラック物流では、そんな努力を積み重ねて残業をカットし、年間960時間の時間外労働上限を超えないように取り組んでいる。

 「空気」を運ぶ部分を縮小すれば、生産性向上という結果が生み出される。この生産性向上は、1台1台のトラック物流ではささやかなものでしかない。しかし、1年、2年というタームで考えれば大きなものになる。生産性からみると、小さな積み重ねが軽視できないことになる。

 紙製包装袋への新需要という小さな変化がトラック物流の生産性に大きな変化をもたらしている。働き方改革による2024年問題、長い猶予期間を設けてなにやら悠長にやっているなと世間には受け止められてきた面がある。だが、現場の変化はここにきてなかなか予想を超えた動きとなっている。

 建設、医療業界でも2024年問題への取り組みが行われている。生産性を上げるというと、どの業界も一般にはDX導入ということになる。しかし、その前に必要なのは仕事のちょっとした見直しである。小さな積み重ね、そうしたものがなければ生産性など何も変わらない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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