冨士ダイス、26年3月期は需要が回復に向かい増収、大幅営業・増益予想、海外展開と生産強化で成長加速

 冨士ダイス<6167>(東証プライム)は超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーで、成長戦略として経営基盤強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業確立に取り組んでいる。26年3月期は需要が回復に向かい増収、大幅営業・増益予想としている。収益回復基調だろう。株価は4月の安値圏から反発して下値を切り上げている。高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、出直りを期待したい。

■超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカー

 超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。24年3月期末時点で、グループは同社および子会社7社(国内2社、海外5社)で構成され、海外はタイ、中国・上海、インドネシア、インド、マレーシアに展開している。

 24年3月には、中国の現地子会社である富士摸具貿易(上海)有限公司が広東省・東莞市に新たな営業拠点を開設し、営業を開始した。24年4月には、マレーシアの現地子会社であるフジロイ・マレーシアが、営業活動の中心を従来のペナン事務所から首都クアラルンプール事務所へ移し、カバーエリアを拡大した。なおインドについては、現地の経済環境などを鑑みて16年8月から事業を休眠しているが、今後は市場調査を行い、事業再開を予定している。

 生産拠点は、国内が郡山製造所・郡山第2工場(福島県郡山市)、秦野工場・秦野第2工場(神奈川県秦野市)、名古屋工場(愛知県名古屋市)、岡山製造所(岡山県倉敷市)、熊本製造所(熊本県玉名郡)、子会社の新和ダイス(山梨県甲州市)、冨士シャフト(福島県二本松市)で、海外がタイとインドネシアとなっている。23年9月には岡山製造所に新たなCIP装置を導入して本格稼働した。岡山製造所の生産能力を増強するとともに、次世代自動車への対応強化を図る。23年11月には熊本製造所の冶金棟のリニューアルが完了した。DX化による省人化やレイアウトの最適化による生産性向上と粉末冶金技術(粉末・成形・焼結)の向上により、背生産能力の最大化を目指す。

■超硬合金とは

 超硬合金というのは、炭化タングステンに代表される硬質の金属炭化物と、コバルトなどの鉄系金属を粉末状にして混ぜ合わせ、型に入れて圧縮・成型し、粉末冶金法(融点より低い温度で焼いて固める方法)によって製造される金属材料である。ステンレスや鋼鉄を凌ぐ硬さを持ち、耐摩耗性に優れるという特性があり、高い精度が求められる金型や工具の材料として適しているため、輸送用機械、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電気・電子部品など幅広い産業分野で使用されている。

 製品としては精密加工が施されて、主に塑性(切屑の出ない)加工に用いられる高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金製耐摩耗工具となるほか、一部は中間製品である超硬合金チップとしても販売される。なお、超硬合金製耐摩耗工具の性能や寿命に関しては、顧客の設計思想や生産プロセスが色濃く反映されるため、超硬合金製耐摩耗工具の大部分は顧客ごとのカスタムメイドとなっている。

■幅広い産業分野に多品種少量の高付加価値製品を提供

 同社の製品分類は、超硬製工具類(線材やパイプの生産用工具として使用されるダイス・プラグ、鉄鋼向けの熱間圧延ロール、人工ダイヤモンドやcBNの生産用工具として使用される超高圧発生用工具など)、超硬製金型類(自動車部品製造用金型、飲料缶や食用缶などの製缶金型、車載電池用金型、ガラスレンズ生産用の光学素子成形用金型、半導体・電子部品用金型など)、その他の超硬製品(超硬合金チップなど)、超硬以外(鋼製品、セラミック製品など)としている。

 25年3月期の製品別売上高は、超硬製工具が41億83百万円、超硬製金型類が42億68百万円、その他超硬製品が42億57百万円、超硬以外製品が38億86百万円だった。主力製品は超硬製工具類のダイス・プラグ、熱間圧延ロール、超高圧発生用工具、超硬製金型類の自動車部品製造用金型、製缶金型、車載電池用金型、超硬製品の超硬合金チップなどとなっている。

 産業別売上高は輸送用機械が27.6億円、鉄鋼が25.7億円、非鉄金属・金属製品が20.1億円、生産・産業用機械が21.2億円、電機・電子部品が14.9億円、金型・工具向け素材が25.2億円だった。取引社数は約3000社に達し、国内の超硬耐摩耗工具市場で長期に亘ってトップシェア(同社推定30%以上)を維持している。

 同社は顧客ニーズを的確に捉えて、個別カスタマイズの多品種少量生産に対応する研究開発~生産~営業体制を構築し、高品質の製品を顧客に提供している。そして、超々微粒から中粒や超粗粒まで顧客ニーズに最適な粒子径や硬さの材種を提供できる新材料開発・粉末冶金技術・加工技術・品質対応力、設計~原料粉末調粉~焼結~機械加工~製品検査の一貫生産体制、豊富な製品ラインナップ、特定の業界・顧客に依存しない収益安定性などを特長・強みとしている。

 さらに同社は、競合が少ない超硬合金製耐摩耗工具で多品種少量の高付加価値製品を提供しているため、切削工具・素材メーカーが多い業界平均に比べて販売単価が高く、販売価格が安定的に推移していることなども特長としている。また財務面では、24年3月期末の自己資本比率79.0%と盤石の財務基盤を構築していることも特長だ。

■中期経営計画(25年3月期~27年3月期)

 24年5月策定の中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、中期方針に「変化に対応できる企業体質への転換」を掲げ、成長戦略として経営基盤の強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業の確立に取り組むとしている。

 目標数値には最終年度27年3月期の売上高200億円、営業利益20億円、経常利益21億円、経常利益率10.5%、当期純利益15億円、ROE7.0%を掲げた。また、成長投資と株主還元の両方を追及する観点から配当方針を見直し、中期経営計画2026の期間における配当を、株主資本配当率(DOE)4%を目途とすることに加え、積極的かつ機動的な自己株式取得を行うことで利益還元を強化する方針とした。

 24年5月には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を公表、24年6月には「一般事業主行動計画」に基づく23年度実績を公表した。また25年6月開催予定の第69回定時株主総会における承認を条件として、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する。コーポレート・ガバナンス機能を一層強化する。

■26年3月期大幅営業・経常増益予想で収益回復基調

 25年3月期連結業績は売上高が前期比0.5%減の165億95百万円、営業利益が39.7%減の4億88百万円、経常利益が31.6%減の6億03百万円、親会社株主帰属当期純利益が39.9%減の4億26百万円だった。配当は前期比8円増配の40円(期末一括)とした。前期の32円には記念配当10円が含まれているため普通配当ベースでは18円増配の形となる。配当性向は186.7%となる。

 売上高は横ばいだが、各利益は減益だった。前期好調だった海外向け溝付きロールが顧客における在庫調整の影響で大幅に減少したほか、原材料価格高騰やIT・人材投資なども影響した。

 製品別売上高は超硬製工具類が12.6%減の41億83百万円、超硬製金型類が8.9%増の42億68百万円、その他超硬製品が6.3%増の42億57百万円、超硬以外の製品が2.0%減の38億86百万円だった。

 超硬製工具類は、前期好調だった海外向け溝付きロールが顧客における在庫調整の影響で大幅に減少した。超硬製金型類は、製缶金型や車載用電池向け金型が好調だった。その他超硬製品は、半導体製造装置向けが堅調だったほか、超硬素材の販売が好調だった。超硬以外の製品は、一部の鋼製自動車部品用工具・金型が堅調だったが、混練工具の販売が低調だった。

 なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が39億90百万円で営業利益が48百万円、第2四半期は売上高が42億87百万円で営業利益が2億43百万円、第3四半期は売上高が40億52百万円で営業利益が56百万円、第4四半期は売上高が42億66百万円で営業利益が1億41百万円だった。

 26年3月期連結業績予想は売上高が前期比6.5%増の176億70百万円、営業利益が22.9%増の6億円、経常利益が16.1%増の7億円、親会社株主帰属当期純利益が8.0%増の4億60百万円としている。配当予想は前期と同額の40円(期末一括)としている。予想配当性向は173.0%となる。

 26年3月期は需要が回復に向かい増収、大幅営業・増益予想としている。産業別売上高の計画は輸送用機械が29.2億円、鉄鋼が27.4億円、非鉄金属・金属製品が21.6億円、生産・産業用機械が21.2億円、電機・電子部品が15.4億円、金型・工具向け素材が27.9億円としている。収益回復基調だろう。

■株価は下値切り上げ

 株価は4月の安値圏から反発して下値を切り上げている。高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、出直りを期待したい。5月29日の終値は709円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS23円12銭で算出)は約31倍、今期予想配当利回り(会社予想の40円で算出)は約5.6%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1042円93銭で算出)は約0.7倍、時価総額は約142億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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