【小倉正男の経済コラム】パウエル議長「後手に回らないことにコミット」

■FRBは0・5%利下げを決定

 FRB(米連邦準備制度理事会)は、9月17~18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で4年半ぶりに利下げに踏み切った。事前には0・25%の利下げになるという見方が多かったが、利下げ幅は予想を超えて0・5%というものだった。

 米国の政策金利は4・75~5・0%に引き下げとなった。「我々が後手に回っているとは思っていない。後手に回らないことへのコミットメントのサインと受け止めてもらうことができる」。パウエルFRB議長は、FOMC後の会見でそう語っている。

 パウエル議長は、今回の0・5%利下げは経済のソフトランディングを確実にするためとしている。「ビハインド・ザ・カーブ」(金融政策で後手に回る)を回避するのが眼目で、利下げのタイミング、利下げ幅とも適切な決定であることを強調している。

 ただし、パウエル議長は0・5%の大幅利下げを継続するという観測、過度な期待にはしっかりと釘を刺している。「今回の決定を受けて、これが新しいペースだと誰も捉えるべきではない」。大幅利下げが継続されるという受け止めについては、そうしたことはないとはっきり否定している。

■日銀は利上げ見送り、「市場との対話」に課題を認める

 日本銀行は金融政策決定会合(9月19~20日)で追加利上げを見送り、政策金利(0・25%)を維持すると発表している。7月末、日銀は現状の政策金利に利上げを行ったが、為替は1ドル160円内外から1ドル140円台の円高に振れ、8月の株式市場は大荒れとなり、大幅下落に見舞われている。

 植田和男総裁は、「今後とも経済・物価が見通し通りなら利上げする考えに変わりはない」としている。しかし、「すぐに利上げということにはならない」「決まったスケジュール感を持っているわけではない」と慎重な発言に終始した。

 質問が集中した「市場との対話」については、自ら「批判があることは承知している」ことを認め、「丁寧な情報発信で説明していく」としている。

 パウエル議長の発言は明快であり、「市場との対話」も当たり前のものとして心得ている。日本のほうは、その日の風向き次第でタカになったりハトになったりで、9月はどうやらハトのようである。

 「(市場との対話について)批判があることは承知している」のは一定の救いといえる。7月末利上げでの市場の混乱は、周到さといった面で大きな課題を残している。いわば、市場混乱という教訓を事実上認めたようにみえる。

■パウエル議長は「市場との対話」を質問されない

 FRBの5%利下げで懸念されていたのが「ドル安円高」が過剰に進行する事態だった。

 日本の製造業などは1ドル160円という円安をすでに見てきており、1ドル140円を割り込む円高になれば、業績下振れ要因になるとみられている。市場のみならず、製造業各社損益に大きな影響が発生しかねない。

 しかし、為替のほうは週明けに1ドル144円台となり、現状は円安に振れている。パウエル議長の大幅利下げ継続観測への否定発言、さらには植田総裁の追加利上げへの慎重な姿勢などが影響しているのか。あるいは、FRBの利下げで債券価格が低下し、米国債利回りが上昇していることを反映しているのか。

 このあたりもパウエル議長の周到さの結果なのかもしれない。パウエル議長は「金融政策を調整する時が来た」(8月23日・ワイオミング州ジャクソンホール講演)と9月の大幅利下げをあらかじめ宣言。市場への無用な軋轢などが走らないようにしてきている。パウエル議長、あるいはFRBはそうした当たり前の情報開示を行っており、あらためてメディアから「市場との対話」などを質問されることもない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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