「まさか」のときに備えて投資セオリーは「変化率より水準」重視に逆転し長期連続増益銘柄で安全を優先=浅妻昭治

<マーケットセンサー>

 投資セオリーには、「水準より変化率」といわれるアノマリー(経験則)がある。企業業績が株価に与えるインパクトは、利益の絶対額よりも増益率の大小の方がより強いケースが多いことを教えている。早い話が、日本一の稼ぎ頭で年間の純利益が、優に2兆円を超えるトヨタ自動車<7203>(東1)よりも、赤字から黒字に転換したV字回復銘柄や増益率が2倍、3倍と伸びるむしろリスキーな銘柄の方が、意外性、サプライズなどから騰げ足が速く株価の上昇率も高くなるとする見方である。この結果、銘柄のクオリティそのものは脇に置いて「上がる株が優良株」などとする一般投資家が首を捻る開き直った銘柄観も生まれる。

 しかし、これはどちらかといえば平時の投資セオリーである。乱世でも通用するかとなったら、保証の限りではない。乱世では、より安全志向が高まるからだ。現在は、英国の国民投票で投開票日直前の世論調査が大曲りに曲がって、まさかのEU(欧州連合)離脱が決定し、為替と株価が世界的に動揺し続けている乱世である。しかも、国民投票から1週間、欧米株価は大きく戻しているものの、日本株や為替の戻りは鈍く、なお英国で国民投票のやり直し要求が一段と高まったり、スコットランドが分離独立してEU残留を問う住民投票を再模索し、さらに離脱交渉でも英国とEUの間で政治的軋轢も伝えられるなど、大乱世に陥る懸念さえある。

 足元の東京市場に関しても、7月10日に投開票日が迫り選挙戦がたけなわの参議院選挙が、本当に大手各紙の世論調査による序盤情勢分析通りに、自民・公明党合計の与党で改選議席の3分の2に迫る議席数を獲得するのかいささか心配になる。英国の国民投票のドンデン返しの先例も気になるところだ。参議院選挙の争点は、「アベノミクス」の是非で、その最大の成果は、円安と株高であった。ところが消費税増税は再度、延期され、為替も「EU離脱ショック」で一時1ドル=100円台を割り、年初来安値を更新する急落となった株価も1万5000円台央まで戻すと上値が重くなるからだ。

 日経平均株価のチャートでは、「アベノミクス相場」は、2012年11月に当時の民主党の野田佳彦首相と安倍晋三自民党総裁による党首討論で、野田首相が衆議院の解散・総選挙を確約した1カ月前の10月安値8488円から2015年6月の2万952円高値まで1万2000円超上昇しているが、そこから今回のショック安で一時、1万4864円の安値に突っ込み、「アベノミクス相場」の上昇率の半値押し目前となった。市場関係者の一部には、「半値押しは全値押し」との相場格言を引き合いに「アベノミクス相場」は往って来いにならないか心配する向きもあるのである。ここから平時に戻るのか、乱世が続くのか、判断に迷うところとなる。

 平時の投資セオリーは、乱世ではまったく逆転するはずである。企業業績と株価の関係でいえば、「水準より変化率」ではなく、「変化率より水準」で利益の絶対額や安定性が、株価へのインパクトポイントとなるということである。現にニトリホールディングス<9843>(東1)は、「EU離脱ショック」の最中の6月27日に上場来高値1万3100円と買われ逆行高したが、これは6月22日に発表した6月の月次売上高が2ケタのプラスとなって、外資系証券の業績上方修正と目標株価の引き上げがあったことが引き金となった。もともと同社は、前2016年2月期まで29期連続の増収増益となるなど、株式上場以来、減益知らずの業績の高水準安定性を誇っており、6月30日に発表を予定している今2月期大四半期(1Q)決算への期待を高めていた前段階があった。その1Q業績が、2ケタ増収増益で着地して前週末1日には上場来高値を1万3580円まで伸ばしており、まさしく乱世の投資セオリーである「変化率より水準」を体現していたのである。

 かつて連続増益株のシンボル株といえば、カネボウ化粧品をM&Aして途切れたものの、そこまで23期連続増益となった花王<4452>(東1)であった。長期連続増益というヘッドラインが、不況抵抗力、経営革新力などを表すとして逆行高、独歩高の起爆剤となった。このニトリHD、花王にならって四半期決算・本決算発表などを視野に入れつつ連続増益銘柄にアプローチすることが、乱世を勝ち抜く最適戦略として浮上する可能性は大となりそうだ。

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