【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領への不信、金利上昇でドル安の報い

小倉正男の経済コラム

■トランプ大統領の政策に信頼が置かれていない?

 3月に入ったが、その途端というべきか株価は波乱の幕開けとなっている。2月中旬の乱高下=大幅下落が「本震」とすれば、3月初めの大幅下落は「余震」のようなものか。
 いずれも、震源地はアメリカ・トランプ大統領にほかならない。

 もっとも、今回の株価下落は、高関税による鉄鋼、アルミの輸入制限が原因だ。つまりは、保護主義的な政策である――。これには内外から強い批判・反発が出ている。

 2月の乱高下では、「株価は理由もなく騰がり過ぎていたのだから調整は当然のもの」(金融証券筋)と前もって予知していたかのようなことをいう識者がいた。大したものだと呆れる、いやいや恐れ入ってリスペクトしなければならないのだが、今回も事前に予知していたのだろうか。

 たびたびの株価の乱高下は、元をただせばトランプ大統領の政策に尽きる。トランプ大統領の政策に「人望」がないというか、信頼が置かれていないことが発端にあるように思われる。

 「よいニュースが報じられたときに株式市場が下がる。大間違いだ」。トランプ大統領本人は、そう怒っている。
しかし、必ずしも「よいニュース」とばかりはいえないと思っている人々も確実にいる。

■減税に感銘が失われているとは・・・

 トランプ大統領の政策――、例えば法人税減税だが、税率は35%から20%に下がった。確かに画期的な法人税率である。

 法人税減税で、直接、恩恵を受けるのは経営者、大株主である。法人税が減れば、利益が残るから、経営者の報酬にはプラスである。利益が残れば、配当余力が高まり、配当が増加する。大株主には確実にプラスになる。法人税減税は、カネ持ちに有利に働くことになる。

 しかも、個人減税では、7段階が3段階に簡素化され、最高税率は39.6%から35%に低下した。カネ持ち減税にほかならない。

 カネ持ちを減税すれば、おカネを使うから経済には廻りまわって好循環を及ぼすというのだが――。
 ただし、この政策は、すでに何度も行われており、一握りのおカネ持ちがアメリカの資産のほとんどを握って支配しているのが実体となっている。

 ビル・ゲイツ氏は、「おカネ持ちはもっと税金をはらうべき」と異論を述べている。トランプ大統領とは異なり、減税を「よいニュース」とばかりに捉えていない。「トランプの減税」だからというより、減税そのものに感銘が失われているのかもしれない。

 トランプ大統領は、白人の中間層を救うということで大統領選挙に勝ったわけだが、今回の大規模な減税策は、ともあれ直接的に中間層に恩恵を与えるものではなかった。

■金利上昇でドル安になる始末

 財政出動によるインフラ投資、核を含む軍拡・軍備更新は、国債発行を伴うものだから金利上昇が追いかけてくる。金利上昇傾向は、株式市場を直撃することになった。

 さらに国債発行で財政赤字が大幅に拡大するからという懸念なのか、ドルが売られる始末になっている。金利上昇でドル高というこれまでの「常識」が吹き飛び、金利上昇でドル安となっている。

 株安、ドル安と、トランプ大統領の思惑は大きく外れ、「よいニュースなのに。大間違いだ」、と。

 政策も人なり――。これもトランプ大統領に信頼がいまひとつ置かれていないということなのかもしれない。トランプ大統領の政策には“懸念”や“不信”が付きまとうとマーケットは判断しているのか。

 株もドルも売られている?マーケットが常に正しいとまではいえないにしても、それがとりあえずのマーケットの判断であるということができる。この悪循環を断ち切ることができるのか。

 バブルな政策を打っても、不徳の至り、あるいは不信の報い、というかバブルに膨らむ前に警戒されて膨らまない。さてさて、3月は桜が膨らむ季節だというのに・・・。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)

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