【編集長の視点】中国リスク敏感相場で早くも逆行高を鮮明化した材サービス株には順張り妙味=浅妻昭治

編集長の視点

百戦練磨、苦節41年のベテラン投資家ほど、嫌な既視感を持ってちょうど41年前の「ニクソン・ショック」を思い出したのではないか?8月11日に中国人民銀行が発表した人民元売買の対ドル基準値の引き下げである。「ニクソン・ショック」も、夏の熱い盛りに起こった。同ショックは、1971年8月15日に米国の当時のニクソン大統領が突如、金とドルの兌換停止を発表したことが、引き金となった。これにより舞台は、暗転したからだ。為替は、1ドル=360円の固定為替相場が、終わりを告げて変動相場制への移行を余儀なくされ、繊維、半導体、自動車と日米貿易摩擦がますます激化するなか、米国からの市場開放・内需拡大要求が圧力を増し、これが日本経済のバブル化の淵源となるとともに、この破綻により日米戦争の「二度目の敗戦」につながった一連の悪夢が、走馬灯のようにまざまざと蘇ったに違いない。

人民元切り下げが、どれほどのマグニチュードを持つのか、「ニクソン・ショック」のように歴史的転換点になるかどうかは、今後の経過次第であるのはもちろんである。同為替政策による世界的株安は、地球を2回りしたが、前週末14日には、中国が、今度は、基準値を引き上げ、世界的に株価は、小康状態を取り戻した。中国では、今年7月末に上海株が急落して、やはり世界同時株安に拍車を掛けたが、中国の証券市場の特殊性が要因として、ほぼ乗り越えた。これと同様に、人民元の切り下げも、これによる最悪ケースの世界的な為替切り下げ競争は回避され、中国リスクは、単に同国の景気減速の先行きに絞り込まれる限定的な範囲にとどまるとの観測も台頭している。

しかし、「ニクソン・ショック」と同様に、強権国家の「力による現状変更」の金融政策との印象は残る。人民元切り下げが、政策シナリオ通りに中国の輸出競争力を回復させて景気を浮揚させ、「世界の工場」としての機能を取り戻せれば問題はないが、シナリオ通りに運ばなかった場合の次の政策リスクが気に掛かるのである。とくにこの懸念は、企業経営者には大問題となるはずだ。8月12日には天津市の港湾部で爆発事故が起こり、進出した日本企業が被害を受けたことも加われば、企業は、今後あらゆるリスクを想定して多様な選択肢を検討してくることも想定される。

実は、前週の東京市場で、こうした問題を先取りするかのように逆行高したセクター株があった。人材サービス株である。前週末14日には、日本マニュファクチャリングサービス<2162>(JQS)が、ストップ高して年初来高値を更新し、アウトソーシング<2427>(東1)、ワールドホールディングス<2429>(JQS)、テクノプロ・ホールディングス<6028>(東1)なども、揃って年初来高値を更新した。人手不足が深刻化し、人材争奪戦の様相を呈し、人材派遣会社の派遣要請が強まっていると伝えられたことが買い材料となったが、この人手不足の背景が、製造業の国内回帰と分析されたためだ。今後も、製造業の国内回帰が続くようなら、人材サービス株の業績と株価をさらに押し上げるとの読みが働いている。

実は、人材サービス会社は、関連する労働者派遣法改正案は、今年6月19日に衆議院を通過して参議院で審議中だが、参議院での安全保障関連法案の審議のあおりを受けて審議が停滞し、成立は8月末以降にズレ込むと観測報道されたばかりである。にもかかわらない関連株の高人気であり、市場参加者が限定的となる夏相場の数少ない有力セクターとして順張り妙味を示唆しているといえよう。

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