【どう見るこの相場】サマーラリーかサマーセールか?業績相場で揺れるマーケット

■兜町の希望的観測「ペンは剣よりも強し」、業績相場のサマーラリー期待と不安

 「ペンは剣よりも強し」といわれる。この希望的観測を兜町流に敷衍すれば、「業績の上方修正は長期金利の上昇よりも強し」となるかもしれない。これをマーケットで体現したのが、前週3日の昼休み中に今2024年3月期業績を上方修正した日本郵船<9101>(東証プライム)であった。当日のマーケット全般は、米国や日本の債券安による長期金利上昇を背景とした円安、株安のトリプル安が続き、日経平均株価が前日との2日間で1317円安と急落していたが、同社株は、業績の上方修正とともに窓を開けて急伸、株式分割権利落ち後の高値を更新する逆行高を演じたのである。

 当日の逆行高銘柄は、同社株のみにとどまらない。前日2日の大引け後に今3月期業績を上方修正していたサンリオ<8136>(東証プライム)はストップ高し、川崎汽船<9107>(東証プライム)とアップルインターナショナル<2788>(東証スタンダード)は、揃って年初来高値を更新した。もともと今回の決算発表では、業績上方修正による株価急騰銘柄が相次いでいた。

 嚆矢となったのは、東京製鉄<5423>(東証プライム)だろう。同社株は、7月21日の今3月期第1四半期(1Q)決算発表時に今期業績を上方修正した。前期も前々期も、1Q決算発表時に上方修正したものの材料出尽くし感などから反応は限定的にとどまった。それが今回は、ストップ高と急伸して、この株高が、電炉株全般への連想買いを誘引するインパクトを発揮し、今期業績を下方修正した山陽特殊製鋼<5481>(東証プライム)の株価まで押し上げた。

 これに続いた決算発表でも、発表企業の6割が市場コンセンサスを上回ったなどと伝えられ、にわかに業績相場の「サマーラリー」期待が高まった。ところが「好事魔多し」そのものである。FRB(米連邦準備制度理事会)の政策金利引き上げ再開に続く日本銀行の長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)運用の柔軟化決定までは何とか持ちこたえたものの、そこに突然、米国国債の格付け引き下げが重なってことで相場が乱高下し、債券安、円安、株安のトリプル安で、「サマーラリー」期待が、いっぺんに売り先行の「サマーセール」懸念に暗転してしまったのである。

 個別銘柄でみても、日本郵船などの「救世主銘柄」、「お助けマン銘柄」がある一方、8月2日大引け後に今期業績を下方修正して株価が10%超も急落したTDK<6762>(東証プライム)のような「悪役銘柄」も混在した。ただ前週末4日は、その悪役銘柄のTDKが、3日ぶりに急反発するととともに、3日に今12月期業績を下方修正した花王<4452>(東証プライム)が、同じく3日ぶりに急反発して年初来高値を更新するなどサマーラリーかサマーセールがゴチャゴチャして不透明化して週を越えた。

■業績上方修正のバリュー株には両建て投資可能性

 決算発表自体は、前週末4日を第一のヤマに前半戦を終了し、同日の取引期間中に業績を上方修正したオカムラ<7994>(東証プライム)などが年初来高値を更新し、下方修正した三井化学<4183>(東証プライム)などが大幅続落したほか、大引け後には日本製鉄<5401>(東証プライム)、クボタ<6326>(東証プライム)、スズキ<7269>(東証プライム)などが業績を上方修正した。週明け以降は、8月10日をピークに後半戦が続くが、この後半戦で日本郵船のような救世主銘柄が期待できるのか、悪役銘柄のTDKのように乱高下を覚悟しなくてはならないのか何とも不透明である。

 そこで今週の当特集では、相場全般が、サマーラリーでもサマーセールでも、あるいは通年通りに高校野球の夏の甲子園大会の進行とお盆休みとともに商いが細り夏枯れ相場となった場合でも順張り、逆張りの両建て投資が可能になる決算発表の前半戦で業績を上方修正して逆行高を演じた銘柄に注目することとした。

 この候補株の第一は、日本郵船のように業績上方修正に増配、株式分割、自己株式取得などが加わったトリプルセット銘柄である。第二は、東京製鉄のようにストップ高した銘柄で、手集計で漏れがあるかもしれないが、16銘柄を数える。第三の候補は、業績上方修正に増配が加わって年初来高値を更新した銘柄で、これも28銘柄に達している。このなかから割安株(バリュー株)に限定してスクリーニングすると順張り・逆張り銘柄候補が浮上することになった。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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