【宮田修 アナウンサー神主のため息】七五三に思う

 七五三参りの家族を見るのは楽しいものです。実に微笑ましいです。わが子がすくすくと育つことを願って神さまにお願いする我が国の素晴らしい習慣だと思っています。私がご奉仕する神社の中に地域全体で七五三のお祝いをしているところがあります。家族だけではなく同じ地域に住んでいる人たち全員からお祝いしてもらえるなんて子どもたちは幸せだなと毎年感じます。神社の拝殿には毎年の記念写真が貼られています。これを見るのも私は楽しみにしています。60歳を過ぎた役員の話では自分も子どもの頃にお祝いしてもらったということですから、少なくとも半世紀以上は続いているのでしょう。素晴らしいことです。

 ところで七五三と言えば子どもの無事な成長を祈ってお参りするものと思っている方が多いと思います。その通り間違いありませんが、かつては少し違っていたように私は思っています。昔は子どもを神社に連れて行く大人たちは、もっと必死だったのです。

 私の父親の生まれた家の菩提寺に残されたている宮田家の過去帳の写しが手元にあります。過去帳と言うのはお寺の檀家や信徒で亡くなった人の名前や戒名、死亡年月日などを記したものです。つまり私の祖先にあたる人たちの記録です。亡くなった順番に記されています。驚きました。童子や童女と記されたものが実に多いのです。2歳で亡くなった子がいます。元文3年とありますから江戸時代ですね。名前がない人もいます。生まれた直後に亡くなったのでしょうか。いずれも生まれたものの大人になることなく短い一生を終えた人たちです。

 現在では生まれた子どものほとんど100パーセントが大人まで成長することができます。かつてはそうではありませんでした。栄養状態もそして医療環境も良くありませんでした。子どもの頃に亡くなる人が多かったのです。そのため7歳になるまでは一人前の人として扱われませんでした。現在の戸籍にあたる人別帳にも記載されず、亡くなったとしても簡単なお葬式で済まされました。悲しい話です。そういう時代ではわが子が無事成長するかどうかは親にとっては重大な問題であったことでしょう。

 つまり七五三参りに向かう親の心境はそれこそ必死だったのです。神さまようやくこの子が3歳になりました。引き続きどうぞお守りください。5歳になりました。健やかの育つといわれる7歳までもう一息です。どうぞよろしくお願いします。7歳のお参りは、ホッと一息ついて親たちは大きくなったわが子を目を細めて見守っていたのでしょう。そんな親たちの気持ちを想像してしまうのです。今自分が生きている時代を考えると本当にいい時に生まれたと思います。

 ご先祖さまは、本当に苦労しながら必死に子どもたちを守りながら命を繋いでくれました。そのおかげで私たちは今生きているのです。有難いことだとは思いませんか。ですから私は私の両親とご先祖さまに毎日感謝しているのです。

 同時に私は少し変なことにも気づいてしまうのです。このようにして引き継がれてきた私たちの命であるのに今の若い人たちは次の時代に命を引き継ごうと頑張ってくれているのでしょうか。疑問です。お若い皆さん!お願いします。是非命を引き継いでください。こんなに引き継ぎやすい時代になったのですからお願いします。

 私は、今年69歳になりました。高齢の神主です。地域全体で七五三をお祝いする神社でも年ごとに子どもが少なくなっています。残念でなりません。寂しいです。七五三参りを前にこんなことを考え、ため息が出てしまいました。(千葉県長南町の宮司、元NHKアナウンサー)

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