【小倉正男の経済コラム】米国 インフレにも経済の厚みと凄み

■インフレは徐々に緩和の兆し

 米国の中間選挙では、バイデンVSトランプにばかり焦点が当てられている感がある。「バイデン大統領は大きく負けたわけではないからむしろ勝利だ」「トランプ前大統領は不正選挙だと周囲に怒鳴り散らしている」――。両者とも次期大統領選挙を睨んでいるのだが、普通の国民からしたら猛烈な物価高(インフレ)のほうが生活面でリアルな争点であるのは間違いない。

 米国の消費者物価指数(CPI)だが、10月は前年同月比7.7%増となっている。消費者物価指数は6月9.1%増とピークをつけたが、7月8.5%増、8月8.3%増、9月8.2%増と4カ月連続で低下している。確かにインフレは高止まりから、ようやく緩和の兆しが現れてきている。

 9月はガソリン、食料品の上昇率がやや鈍化をみせた。だが、サービス価格が騰がり続けている。住居費の上昇が止まらない。医療、輸送などが上昇している。10月にはガソリン価格がピークアウト、食料品も低下している。サービスでは中古車販売、医療など低下している。ただ、住居費は依然上昇し、ホテル宿泊費は大幅高騰となっている。

■大幅利上げにもかかわらず景気はそう悪化していない

 連邦準備制度理事会(FRB)は、11月前半の連邦公開市場委員会(FOMC)で4会合連続となるが0.75%利上げを決定している。パウエルFRB議長は、「景気よりもインフレ」という方針を明らかにして、「利上げはデータ次第」としている。インフレの緩和が確認されれば、12月の次回会合で利上げペースが減速する可能性も示されている。

 FRBの利上げは凄まじいものだった。3月に0.25%利上げし、ゼロ金利政策を解除した。そして5月の0.5%利上げ後、6月から4会合連続で0.75%利上げを行っている。0.75%利上げは、通常の利上げの3倍の上げ幅であり、異例の速さで高い利上げが行われている。

 尋常ではない利上げが進められてきているわけだが、インフレの背景に米国の景気の強さがある。10月の農業分野以外の就業者は26万1000人増、市場予想を大きく上廻っている。確かに失業率は3.7%(9月3.5%)と悪化した。だが、連続で大幅な利上げが実行されたにもかかわらず労働市場はそう悪くなってはいない。

 3%台の失業率というのも実際のところ歴史的な低さである。人手不足が続き、賃金は上昇している。インフレ退治ばかりに傾斜する余り景気が急悪化していたら、中間選挙はバイデン大統領の民主党は目も当てられない結果になっていたに違いない。民主党は上院、下院とも大健闘という結果になっている。

■米国のインフレは二人の大統領の合作

 米国の景気は本質的に強いというか、大幅利上げに抵抗するような動きをみせている。バイデン大統領は、就任と同時に総額1兆9000億ドルという大型予算を柱にした追加経済対策法を成立させている。国民1人当たり1400ドルの現金給付を実施している。新型コロナで傷んだ経済、家計を救済するというのが大義名分である。

 4人家族なら5600ドル、1ドル=140円で換算すると78万4000円の現金給付になる。いわば、“大盤振る舞い”なのだが、個人消費に火をつけた面がある。それ以前にトランプ大統領(=当時)も大統領選挙の真ッ最中だったこともあり、太っ腹に現金給付を実施している。

 国民への現金給付は、この2人の大統領が負けず劣らずという格好で行っている。気前のよい現金給付で消費景気が持ち上がったところに、エネルギー、食料品などの価格超高騰が追い打ちをかける事態になったわけである。

 米国のインフレは凄まじいものになったが、景気の強さが根底にある。不謹慎といわれるかもしれないが、「やや不思議なインフレ」、あるいは「ややうらやましいインフレ」といえるかもしれない。米国の経済・景気に厚みと凄みがあり、したがってインフレにも厚みと凄みがある。是非はともかくこの凄いインフレは二人の大統領の合作にほかならない。

 日本では、こうした現金給付は、「貯蓄に廻る」といった理屈で敬遠されることが多い。そうしたことから国が企業に賃上げを要請するというような「社会主義」が繰り返されている。これでは日本にもたらされるインフレは、スタグフレーション型というかなり悲惨なものしか想定できないに違いない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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