【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領=極限の“支離滅裂” イランに軍事介入、財政赤字拡大で「米国売り」再燃か?

■イラン中部のフォルドゥ爆撃、軍事介入という“支離滅裂”

 イスラエルによる先制攻撃で開始されたイランとの戦争だが、攻撃の応酬が止まらない。イスラエルは執拗な「ガザ戦争」に続いてイランとの戦端を開き、イランの政権交代=「レジーム・チェンジ」を目指しているとしている。

 トランプ大統領は、この戦争に関与しないとみられていた。しかし、「(イランへの攻撃は)やるかもしれないし、やらないかもしれない」と豹変。イラン攻撃への軍事介入は「2週間以内に判断する」と発言。6月21日夜にイラン中部のフォルドゥなど3か所の核施設を爆撃したと発表している。

 トランプ政権内では、ギャバード国家情報長官が「イランは核兵器製造をしていないと判断している」という分析を明らかにしていた。しかし、トランプ大統領は根拠を示さず、その分析は「間違っている」と否定。イランへの軍事介入に前のめりの姿勢が隠せない状況だったが、ついには後戻りができないフォルドゥ爆撃に踏み込んでいる。

 トランプ大統領は、「ウクライナ戦争」「ガザ戦争」の和平調停を行うとしていたわけだが、いずれも和平どころか混迷を深めている。ウクライナ、ガザの和平調停など投げ出し、そのうえイスラエルとイランの戦争に介入するというのは“支離滅裂”というしかない。

■軍事介入で財政赤字はなおさら拡大、減税法案どころではなくなる

 問題なのは、トランプ大統領の肝いりである「ひとつの大きくて美しい財政法案」との関係だ。同法案はいま上院で審議中なのだが、トランプ大統領がそう名付けたとされている。「メディケイド」など低所得層の福祉を削減してまで、富裕層~中間層に減税をもたらすのが眼目である。

 減税による財政赤字はお得意の関税収入で穴埋めするというのだが、埋め切れるメドはまったくない。しかも「相互関税」交渉も進捗が見られず、トランプ大統領の関心も希薄化している。「大きくて美しい財政法案」がもたらすものは、“大きく増加する美しくない財政赤字”といえるかもしれない。

 そのうえイランに軍事介入では財政赤字はなおさら拡大するばかりになる。金利はどうなるかは「トランプ関税」の影響次第だったが、関税に加えてイランなど中東の混迷が長期化するとなればインフレが顕在化しないわけにはいかない。

■「米国売り」再燃か、増税法案に差し替えが必要?

 イスレエルとイランの攻撃応酬だけで、1バーレル60ドル台前半に落ち着いていた原油価格が1バーレル73~74ドルに上昇している。インフレ再燃で金利上昇となれば、米国債利払いを含めて財政赤字拡大が止まらなくなる。減税法案が審議中なのにイランへの軍事介入ではそれこそ“支離滅裂”の極致にほかならない。

 トランプ大統領は、「イランとの戦争はおカネがかからない」と思い込んでいるフシがある。イスラエルのネタニヤフ首相に“米国が軍事介入すれば鎧袖一触でイランは体制崩壊を起す”と吹き込まれたのか。しかし、そう簡単にはいかない。戦争が続くなら減税法案どころか、大幅増税法案への差し替えが必要になる。

 トランプ大統領は一体何をやりたいのか。まったく懲りていない。これでは間違いなく「米国売り」(NY株式・米国債・通貨ドルのトリプル安)に再び見舞われる可能性が強まりかねない。
 
■パウエル議長に2・5%の大幅利下げを要求、解任に再び言及

 トランプ大統領は、政策金利据え置きを発表した連邦準備制度理事会(FRB)に対して2・5%という大幅利下げを要求している。

 「(FRB議長の)パウエルは我が国に数千億ドルの損害を与えている。(政策金利を)2・5%下げるべきだ」
 トランプ大統領は、パウエル議長を「遅過ぎる」「愚鈍」とまで中傷し、再びパウエル議長の解任について言及している。ここでも根拠らしいものは何も示されていない。

 FRBが行っている政策金利変更は通常1回に付き0・25%の上げ下げである。トランプ大統領の2・5%利下げは通常の10回分に当たる。ちなみにいまの米国の政策金利は4・25~4・5%。それを一気に1・75~2・0%に下げろということになる。パウエル議長の解任が現実に行われるとすればこれも「米国売り」につながりかねない。

 そこまで金利低下にこだわるとするなら、イランへの軍事介入にはTACO(Trump Always Chickens Out=トランプは常に逃げる)という選択にならざるを得ない。ところがTACOではなくイランへの軍事介入を行ったわけだから、大幅利下げはあり得ない。金利は間違いなく真逆に上昇する。「米国売り」に再び見舞われるのは確実という筋合いになりかねない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■ガソリン・軽油の暫定税率廃止法成立  ガソリン暫定税率廃止法は11月28日に成立し、ガソリン税2…
  2. ■うつ・統合失調症・発達障害を脳から理解する、最前線研究を平易にまとめた一冊  翔泳社は11月25…
  3. 【新築マンションの短期売買を分析】  国土交通省は11月25日、三大都市圏および地方四市の新築マン…
2025年12月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

ピックアップ記事

  1. ■「大きく産んで小さく育てる」IPO市場、期待裏切る後半戦  48勝2分10敗である。2025年の…
  2. ■日銀イベント通過で円高前提、紙・パ株が師走相場の主役候補  今週のコラムは、日銀の金融政策決定会…
  3. ■FOMC通過も市場は波乱、金利と為替に残る違和感  FRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(公…
  4. ■眠れる6900トンの金が動き出す、「都市鉱山」開発でリデュース株に追い風  今週の当コラムは、金…
  5. ■天下分け目の12月10日、FRB利下げで年末相場は天国か地獄か?  天下分け目の12月10日であ…
  6. ■AI・データセンター需要拡大に対応、測定能力は従来比最大2倍  リガク・ホールディングス<268…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る