【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争――敗者はアメリカの消費者&経済

小倉正男の経済コラム

■敗者はアメリカの消費者と経済

 トランプ大統領の交渉術なのだが、ブラフをかけて強気の発言を繰り返している。

 米中貿易戦争でトランプ大統領はアメリカの経済界から圧力がかかっていると報道されると、「アメリカは中国と合意する圧力にさらされておらず、中国が圧力を受けている」とことさら否定している。
 アメリカは中国との貿易戦争で何も困っていない、困っているのは中国だとしている。

 確かに、中国がトランプ大統領から圧力を受けているのは事実だが、アメリカもそれは同じだ。むしろ、アメリカこそがトランプ大統領の圧力にさらされている面がある。

 トランプ大統領は、子供じみている面があり、中国に最大の関税をかけるつもりだ、やるぞ、やるぞ、と脅しをやめない。最大の関税を課せば、確かに中国が被害をこうむる。しかし、それだけにとどまらない。アメリカにしても被害は甚大である。

 関税は輸入する側が払うわけだから、例えばアップルでいえばアップルが負担する。それは最終的には消費者、つまりお客に転化される――。

 敗者は、極論するとアメリカの消費者であり、アメリカの企業、そしてアメリカ経済にほかならない。当然ながらアメリカ企業からは悲鳴というかブーイングが起こっている。

 トランプ大統領は、それを一蹴して文句があるなら中国からアメリカに工場を移せと開き直っている。
 だが、トランプ大統領にも十分にダウンサイド・リスクがあるということになる。アメリカ企業の不満・憤懣はジワジワ効いてくるとみておくべきである。

■中間選挙前に解決させるという観測

 トランプ大統領は、中国から得る関税収入は国内の減税に原資にする、と強弁しているのだが呆れた話である。それでも11月の中間選挙に勝てるのか――。そこに弱みがある。

 トランプ大統領は、中国からの輸入品に2000億ドル規模の制裁措置を発動するとしている。だが、その前に一方で閣僚級協議を提案している。中国もそれを歓迎しており、米中は話し合いに入る。一歩一歩解決・合意に近づいている面をみておくべきである。

 ところが、子供っぽくというか、弱みを見せたくない、圧力を受けているのは中国でアメリカは圧力などないというのである。トランプ大統領はあくまで自分が勝者で、中国を敗者にしなければならないとしているわけである。

 お互い大人になって話し合って妥協しなければならないのに難儀な人である。トランプ大統領にしても、中間選挙の前に米中貿易戦争を解決させておく必要がある。
 つまり貿易戦争は終結させなければならない。見透かされているのに慌ててブラフをかけているのは、むしろ閣僚級協議で詰めて最終交渉での合意に向かうのではないかという観測を生んでいる。

 トランプ大統領の頭にあるのは中間選挙であり、これに勝つために、トランプ大統領を勝者に装う必要がある。中国を敗者に仕立てて、何とか早期に合意を図りたいというのが本当のところなのではないか。
 合意の方向に踏み出してくれというのは、世界の大方の希望であるのは間違いないのだが・・・。

■トランプ大統領の支持率低下

 アメリカ国民の多くが怒れば、あるいは恥ずかしいと思えば、トランプ大統領の独裁や暴政に鈴をつけられるはずである。

 ポピュリストとか独裁者というものは、国民の動向に異様に敏感なところがある。
 ヒトラーは、国民に雇用をつくるためにアウトバーンなど公共投資を行ったりした。第一次世界大戦の前線から復員で帰ってきた男性の失業者を救うために奥さんなど女性が職場から退くと優遇措置を与えたりした。

 ムッソリーニは、当時としては考えられない労働時間の短縮(時短)を行った。給料はそのままで時短を行ったわけだから、自動的に大幅な賃上げとなった。だからヒトラー、ムッソリーニともに支持は高かった。

 これらに比べるとトランプ大統領の支持はもともと低く、8月の42%から9月は36%に低下していると報じられている(CNN)。これまでの最低支持率を更新している。
 現職中なのに、トランプ大統領の暴露本が発売され、政権内部の高官たちからの告発も頻発している。これほど悪評おびただしい大統領も珍しい。

 アメリカの国民がさらにトランプ大統領を見限れば、窮地に立つところに接近している。
 アメリカの消費者、企業、そして経済を敗者にして、それでもトランプ大統領は生き残るとすれば、デモクラシーという制度は何だったのかという根本が問われることになる。アメリカのデモクラシーの底力をみたいものである。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)

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