【小倉正男の経済コラム】米国・債務上限問題 茶番で終わるか大惨事か

■合意なければ6月1日にデフォルト

 米国連邦政府の債務上限問題だが、いまだ合意にいたっていない。このままモメ続けることになれば、6月1日にはデフォルト(債務不履行)に陥りかねない。米国経済どころか、世界経済の大混乱をチラつかせた「政治ゲーム」となっている。

 バイデン大統領とすれば、何がなんでも連邦政府の債務上限を引き上げなければならない。しかし、それには議会の承認が必要である。議会を通す日程からすると、いま話を取りまとめないと6月1日には間に合わない。

 バイデン大統領の交渉相手は、共和党のマッカーシー下院議長である。共和党の立場は、インフレはバイデン大統領によるものであり、大幅な歳出削減を求めている。

 しかし、米国のいまのインフレは、新型コロナ禍突入という状況だったにしても、トランプ大統領(当時)が無関係だったとはいえない。トランプ大統領(当時)が大統領選を意識して行った“大盤振る舞い”も関連している。インフレの片棒を担いだとまではいわないが、共和党に責任の一端がないわけではない。

■バイデン大統領VSトランプ前大統領の戦い

 しかし、共和党に幸いだったのはインフレが顕在化したのはバイデン大統領になってからである。来2024年には大統領選が控えている。共和党としては、「インフレ禍」を追い風にいまはバイデン大統領と民主党をできる限り追い詰めるチャンスなのは間違いない。

 マッカーシー議長に強く圧力をかけているのは、「フリーダム・コーカス」といわれている。「フリーダム・コーカス」は、共和党の保守強硬派であり、トランプ前大統領の支持者たちとみられている。

 その視点からすると、債務上限問題はバイデン大統領とトランプ前大統領の戦いにほかならない。前回大統領選でつくられた遺恨の戦いなのか、来年の大統領選に向けての前哨戦なのか。共和党が大統領選候補者にトランプ前大統領を選ぶかどうかはまだ不明だ。だが、その二人の戦いに米国のデフォルトを懸けるのは危険というしかない。

■茶番で終わるか、大惨事か

 茶番といえば茶番なゲームなのだが、多分に危ない要素が残されている。「(デフォルトは)経済面、金融面で大惨事を招くことになる」。イエレン財務長官は、債務上限問題についてそう警告を発している。

 仮に万が一でデフォルトになったら、共和党、あるいはマッカーシー議長や背後の「フリーダム・コーカス」への批判・非難は厳しいものになる。デフォルトになれば、年金もそうだが、議員や役人たちの給料も即刻出ないことになる。それどころではない。あらゆる局面で悲惨なことが起こりかねない。

 そうなれば、批判・非難が向かう、あるいは責任を問われるのはマッカーシー議長など共和党サイドになるとみられる。起こってからリアルにわかってもどうにもならない。先行き何が起こるか分からないが、矛を収めて債務上限問題で合意する時が迫っている。茶番で終わればよいが、大惨事になればお粗末というかシャレにはならない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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