【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領 物価高で支持率低下 輸入食料品200品目以上で突然の関税除外措置、政策に不本意なブレ発生

■突然、輸入食料品200品目以上を関税除外

 トランプ大統領は、輸入食料品を中心に「相互関税」対象から除外する大統領令に署名した(11月14日)。コーヒー、紅茶、緑茶、アボカド、トマト、バナナ、牛肉、コンビーフなど牛肉製品、各種香辛料など――。突然、200品目を越える規模で関税除外を行っている。

 相互関税を発表した4月2日には、「解放の日」と名付けて喜色満面だった。関税除外では、不本意なのかほとんど無口で「私はいくつかの食品の価格を下げたいだけだ」と語るのみだった。

 トランプ大統領の言動だが、変化がみられる。これまでは大幅な金利低下を要求し、「インフレなど起きていない」「食料品の価格は下がっている」と発言してきている。今回の輸入食料品の関税除外は、「トランプ関税」が物価上昇(インフレ)を押し上げていると事実上認めたということにほかならない。

■人気低迷に歯止めをかける意図で関税除外を行った

 NY市長選挙、ニュージャージー州・バージニア州知事選挙――、共和党は連敗となっている。トランプ大統領は、「政府機関の一部閉鎖のため」と敗因を語っている。

 政府機関閉鎖は、民主党が公的医療保険料補助を要求し、つなぎ予算成立を妨げたためと非難。選挙での連敗は関税政策・物価上昇によるものという見方を否定してきている。

 しかし、最新調査(CNN)では、トランプ大統領の支持率は過去最低の37%。不支持率は63%と過去最悪になっている。「経済を悪化させている」という理由から支持が下落している。

 物価高による生活難、雇用低迷が影響している。輸入食料品の関税除外は、人気低迷に歯止めをかける意図から突如行われたというしかない。

■「賃金は上がっている」VS「インフレの悪夢を終わらせる」

 物価問題は厄介である。バイデン前大統領の大統領選挙での敗北は、物価上昇(インフレ)という要因を軽視したことが大きい。

 バイデン前大統領は、インフレという現実は認めたが「賃金は上がり続けている」と国民の生活実感に寄り添う姿勢はほとんど希薄だった。インフレは好景気による雇用・賃金増で吸収できているという認識であり、これでは支持・人気は低下するしかなかった。

 23年~24年の消費者物価指数、雇用・平均賃金(時給)の動きをみると、インフレは顕著だが雇用は大幅増、賃金は確かに上昇傾向となっている。

 これでも国民の生活実感からすれば、「経済が良い状態にある」という評価にはならない。雇用・平均賃金データよりも、卵1ダースの値段が2~3ドルから4~5ドルに上昇するほうがはるかに深刻。大統領選挙に投票するという動機は、それこそ生活実感であるに違いない。

 トランプ候補(当時)は、「バイデン・インフレの悪夢を終わらせる」「インフレは国民生活を破壊している」と物価高を徹底して非難している。「私が勝利すれば、すぐに物価を引き下げる」。選挙の常套手段とはいえ、インフレが票の動きを大きく変えたとみられる。

■トランプ大統領が抱える「インフレの悪夢」の逆襲

 トランプ大統領は、いまその「インフレの悪夢」に逆襲を受けている。消費者物価指数は9月3.0%となっている。1月に3.0%を記録したが、2月以降は悪くても2%後半にとどまっていた。「トランプ関税」の影響が徐々に発現している。しかもバイデン前大統領時代からのインフレが雪だるま式に累積している。

 問題なのは雇用環境が7月から悪化が顕著になっていることだ。8月の失業率は4.3%に上昇している。雇用が大幅に減少しており、平均賃金も伸び悩み傾向、陰りの兆しがみられる。移民の就業機会が失われ、最近では一般米国人の雇用機会も低下している。AIの影響による雇用喪失も一部に出ている。AIが若年層などの就業を奪っている。

 余談だが日本でもAIによる構造変化は進行中だ。IT商品・サービスの比較サイトへの来訪客が大幅減少、AIにこの分野を取って代わられている。AI情報に仕掛けて自社IT商品を取り上げてもらうといったコンテンツ工作事業が台頭している。システム開発でも簡易事業は顧客がAIによる内製化を開始している。AIができないシステム開発に取り組まないと生き残れないといった事態となっている。

 トランプ大統領は、公的にはいまだ「インフレなど起きていない」という立場だ。しかし、国民は消費という生活現場でインフレを実感している。例えばMLB野球スタジアムでは、人気商品だがホットドッグが当たり前に8ドル(1200円)という値段である。以前はインフレに追いつかないまでも雇用増、平均賃金上昇があった。いまはそれも危うい。

 トランプ大統領は、大統領選挙時に「バイデン・インフレ」と声高に非難を行った。いまは「トランプ関税インフレ」により自らの支持・人気が剥落している。自業自得なのだが、因果なことにインフレの逆襲に晒されている。インフレという厄介な病理がトランプ大統領の言動に不本意なブレを生じさせている。
(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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