【編集長の視点】「コーポレートガバナンス・コード」関連で自己株式TOB銘柄はアプローチ妙味を示唆=浅妻昭治

「世界同時株高」が、アッという間に「世界同時株安」ムードである。ギリシャの債務不履行(デフォルト)不安の再燃、円高への巻き戻し、中国の空売り規制の緩和などの懸念材料が重なったためで、「リスク・オン」か「リスク・オフ」か先行き不透明感を強めている。東京市場も例外でなく、日経平均株価が、15年ぶりに2万円台にタッチする急伸を牽引した値がさ株の値崩れが厳しく、高値警戒感を強めている。

この逆風をハネ返してくれるのは、米国市場を追って今週からスタートする3月期決算会社の業績発表と、4月30日に開催される日銀の金融政策決定会合での金融緩和策第3弾期待である。もちろん決算発表は、今2016年3月期業績が、2ケタ増益と続伸することが大前提となる。しかし、今回の決算発表で注目されるのは、増益率ばかりではない。今年3月に金融庁と東京証券取引所から公表された「コーポレートカバナンス・コード」に基づいて、株主との建設的な対話の積極化、持続的な成長戦略と中長期的な企業価値の向上策を相次いで打ち出してくる可能性があるのである。ファナック<6954>(東1)が、今年3月に同コードの充足に向けてIR(投資家広報)の専門部署の新設を発表して、株価急騰の追撃材料となったが、同様のケースの続出も想定される。企業価値の向上策として増配、自己株式取得などの株主還元策が相次ぐようなら、キャッシュリッチ企業などが、再脚光を浴びる可能性もある。

その自己株式取得で今回、とくに注目したいのが、自己株式を株式公開買い付け(TOB)で実施した銘柄である。個人的な集計で漏れがあるかもしれず恐縮だが、昨年4月以来この1年間に自己株式TOBを実施した企業は、26銘柄に及ぶ。多くがオーナー経営の企業で、創業家の資産管理会社からの自己株式取得が中心だ。資産管理会社が保有株式売却の意向を伝え、市場での直接売却による需給悪化を避けるために受け皿として実施したもので、その代わりTOB価格は、発表前日終値、過去1カ月間・3カ月の終値平均値などの基準値に対してディスカウントされて設定された。

ディスカウント率は、5%台から18%台までさまざまだが、問題は、現在の株価が、このTOB価格に接近している銘柄である。今後、決算発表や株主総会などを迎えるスケジュール下、TOB価格が適正だったのかどうか株主との対話を迫れることも想定される。かつてのような幹事証券の尻を引っ叩いて株価を押し上げるなどの離れ業は禁手である。そうだとすれば、増配、自己株式取得などの企業価値の向上策一辺倒となるわけで、投資対象銘柄としてここが逆に狙い目となるはずだ。自己株式TOB実施26銘柄の現在の株価位置から、投資妙味株が浮上することになり、アプローチ妙味を示唆することになる。(本紙編集長・浅妻昭治)

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