【小倉正男の経済コラム】緊急事態宣言「クライシスマネジメント」の失敗

小倉正男の経済コラム

■人々に響かない「緊急事態宣言」

 1月8日、東京都そして神奈川県、千葉県、埼玉県の首都圏に「緊急事態宣言」が再発令された。しかし、東京の盛り場などの人出だが、前回の緊急事態宣言時に比べると大きくは減っていない模様だ。郊外の地域商店街などはむしろ人出が増えている印象もある。

 ちょっと以前までは、国や地方自治体は「GoToトラベル」「GoToイート」と旅行や外食など需要を奨励していたわけである。手のひらを返して「外に出るな」、「飲食店は時短営業をしろ」、と命じてもどうやら人々の気持ちには響いていない。

 首都圏の1都3県に続いて、関西圏の大阪府、京都府、兵庫県の3府県にも緊急事態宣言が発令される。さらには、中部圏の愛知県、岐阜県、そして福岡県、栃木県にも発令が追加される見込みだ。

 国は、経済に軸足を置いて、緊急事態宣言には消極的だった。菅義偉首相の緊急事態宣言の会見時の表明も国民の心を打つようなものではなかった。国民も敏感であり、決意といったものの熱量をくみ取れなかった。

■“最善の想定”の「罠」に嵌まる

 「リスクコミュニケーション」、最近では有事の情報の伝え方を云々するのを聞くことがある。

 しかし、これは技術の問題も関係しないではないが、心や決意といったものがこもっていなければ、技術があっても伝わらない。それに大前提としてしっかりした「クライシスマネジメント」(危機管理)が行われていなければ、どんな立派はスピーチをしても伝わらない。

 通常国会に新型コロナ対策の「特措法改正」案を提出することになったが、当初は「新型コロナが落ち着いたら改正する」という姿勢だった。新型コロナなどすぐに落着するという“最善の想定”で臨んでいたことになる。

 GoToトラベル、GoToイートと経済優先の「罠」に嵌まったのは、“最善の想定”に依存し過ぎた面が否定できない。「一寸先は闇」、とあくまで“最悪の想定”で動くのがクライシスマネジメントの基本である。

■「ダメージコントロール」で生き残るという考え方

 クライシスマネジメントでは、ダメージは受けることは必ず覚悟するものである。ただし、極力生き残りを意識して、ダメージをコントロールする手法が採られる。これが日本ではなかなか理解されない。

 クライシスマネジメントでは、当然というか必ず前提としてダメージを想定しなければならない。深刻なダメージがあるからクライシスマネジメントなのである。だが、致命傷にならないようにダメージを制御して甘受することで、生き残りという最終目標を実現する。それがクライシスマネジメントの使命となる。
 
 経済の生き残り(サバイバル)を目標とするなら、一時的には経済に厳しいダメージがあっても、新型コロナ封じ込めを徹底する。それが「ダメージコントロール」という考え方にほかならない。

 新型コロナ感染は、いまやどうにもならない状況になっている。医療現場は大変であり、頭が下がる思いだ。そして、現況では国民も新型コロナに感染したとしても検査も入院もままならない。とんでもないことになっている。だが、その反面では危機感も何となく薄いという奇妙な事態に嵌まり込んでいる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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