【小倉正男の経済コラム】古民家ビジネス 買い手は海外勢、「ヴィンテージ」を評価

■ローカルからグルーバルに発信

 京丹波町、京都府のほぼ真ん中に位置し里山が広がっている。福知山市などと並んで「森の京都」といわれている地域である。人口は1万2000人強、以前は1万5000人が住んでいた。人口減少は進行するばかりである。

 京丹波町の里山に古びた大きな門構えの古民家を取材した。田んぼの真ん中に石垣に囲まれた豪壮なその古民家は旧床屋屋敷で250年前の建物とされている。ざっくり250年前を調べると江戸時代中期(宝暦・天明期)にあたる。側用人・老中の田沼意次が権勢を振るっていた時期ということになる。

 旧庄屋16代当主が「古民家仕舞い」を決意して売却した。「17代」の新当主となったのは米国人である。米国在住だが、日本建築が好きで古民家などを欧米に紹介して販売する会社を立ち上げている。旧床屋屋敷は、その拠点のオフィスに活用する。屋敷、酒造蔵、屋敷内の掛け軸など旧い什器、土地台帳といった古文書、山林の一切合切を購入した。「円安ドル高」という為替動向も海外からの古民家購入には支援材料になっている。

 この古民家売買の間に入ったのが中川住研(亀岡市)である。中川住研は、30年前から古民家を取り扱ってきた実績がある。この旧床屋屋敷を2022年9月に仕込んで23年1月に売却を果たしている。中川克之代表取締役は、「古民家はたくさんある。ただ、売り物件は多くはない。古民家の価値を評価しているのは欧米、中国など海外の個人客だ。当社はローカルからグローバルに発信している」と自社のビジネスモデルを語っている。

■「丹後ちりめん街道」は古民家の宝庫

 中川住研は与謝野町の古民家移築用物件も手掛けている。中川住研の所有物件で、海外客に売却するとしている。「解体すれば、茶室が5,6室ほど供給できる。米国西海岸などは日本家屋専門の建築職人、大工さんがおり、解体して運べば茶室に組み立てられる」(中川代表)。販売金額は解体、輸送、海外現地組み立て料になるとしている。

 与謝野町は「海の京都」にあたり、「丹後ちりめん街道」で知られた地域である。高級絹織物「丹後ちりめん」で江戸期、明治期などに巨財をなした豪商の古民家が数多く残っている。中川住研としては、潜在的に宝の山のような地域ということになる。

 中川住研とはお客がかぶるのだが、原田商店(綾部市)もリノベーションした古民家、古民家改造の旅館などの販売・賃貸ビジネスに取り組んでいる。「ワーケーション」「田舎暮らし」を謳い文句にしているので国内のお客をターゲットにしているのかと一瞬誤認。だが、原田商店もお客はやはり海外だ。「当社のいまのお客さんはグローバル」(原田直紀代表取締役)。

 地方の不動産業が生き残るには、「グルーバル」をターゲットにするしかない。それが地方ではなかば常識となっている。中川住研、原田商店ともビジネスには熱心というか、そのガッツ、アイディアたるや凄まじいものである。いまの地方でビジネスをやるにはそのぐらいでないとやっていけない。ローカルのほうが「グローバル」に当たり前に取り組んでいる。

■京都府も「空き家問題」として古民家売買を支援

 中川住研の中川代表に、「本当は国内のお客に買ってもらえればと思っているわけですか」と質問した。中川代表は、「うーん、散々国内のお客には理解してもらえるように努力してきたが・・・」と否定的である。国内のお客については、(矢尽き刀折れ・・・)というニュアンスである。

 古民家は、例えば60年~100年を超えたら、査定として家屋は評価ゼロになる。むしろ解体費用がかさむ。土地は地方にあるわけだから、坪単価は高くはならない。結果、古民家の価格は二束三文である。所有者は諦めており売却しない。購入する側も投資するというような需要はない。「ワーケーション」「田舎暮らし」といった切り口も使われたが、コロナ収束ではむしろ旧いコンセプトになっている。

 京都府内には17万戸強の空き家がある。そのうち古民家は1万戸弱とみられる。京都府など自治体としても空き家は深刻な問題である。京都府ものづくり振興課が中川住研、原田商店などの古民家売買ビジネスへの取り組みをサポートしている。

 最後にひと言だけ直言するとすれば、古民家だけに由緒来歴についてである。古民家は、ワインなどでいえばヴィンテージものだ。いつどこでつくられてその後どのようなエピソードを蓄積しているのか。そこは古民家の価値を左右するポイントにほかならない。

 京丹波町の旧床屋屋敷も大黒柱に百姓一揆に襲われた刃物傷の痕跡が残されている。これは幕末の万延元年(1860年)の百姓一揆による痕跡である。端的に旧床屋屋敷の長い歴史を物語っている。由緒来歴、すなわち「ヒストリー」、あるいは「ストーリー」がより詳細に明らかにされれば、旧床屋屋敷の付加価値が大きく違ってくる。購入してオーナーとなるサイドからしたら、その蘊蓄は掛け替えないものになるに違いない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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