【小倉正男の経済コラム】FRB インフレより景気後退を警戒

■「ベージュブック」経済活動は鈍化

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、全米12地区の連銀景況報告(ベージュブック)で「10月以降、経済活動は鈍化した」と景気後退に警戒を示している。「労働需給は緩和され、消費者が価格に一段と敏感になっている」(11月29日)。利上げ局面は大枠で終了、インフレより景気に見解をシフトしている。

 米国の消費者物価だが、10月は前年同月比3・2%上昇にとどまっている。8月~9月はともに3・7%上昇だったが、消費者物価の上昇幅は縮小している。2022年は8~9%という大幅上昇が続き、年末に7%台に小幅だが低下した。23年に入っても前半は6%台上昇で推移したが、インフレがようやく収束を迎えているようにみえる。

 だが、新年の利下げについて議論するのは「時期尚早」という見方が一部に残っている。「インフレ再燃を警戒すべきで、再利上げの余地を残しておく必要がある」という立場からの見解だ。インフレを重視し、利下げなどはまだ“先の話”という扱いになる。

 「ベージュブック」は、新年はむしろ景気後退のほうが焦点であり、政策変更(利下げ)に踏み込む可能性を示唆している感がある。インフレ、景気についての見方は分かれている。だが、「ベージュブック」は、先行する格好で景気後退に焦点を当てている。FRBは柔軟な姿勢で政策対応を進めている。

■国債の含み損は10兆5000億円

 日本のほうは、日本銀行が2023年度上半期決算を発表した(11月28日)。日銀の9月末国債保有残高は586兆8781億円、前年同月比7・6%増。だが、保有国債の時価総額は576兆3780億円となっている。評価損益は10兆5000億円の含み損になっている。3月末の含み損1571億円に比べて大幅に増加している。

 長期金利が上昇し、債券価格が低下している。金利上昇局面では、FRBも同様だったが巨額の含み損が発生する。日銀は国債を満期償還まで保有するとしており、そのため損失は出ないとしている。日銀は、巨額の含み損を抱えているとしても、金融政策には影響はまったくないと表明している。

 日銀の9月末の自己資本残高は12兆7353億円。仮に新年に入って金利を上げる局面があるとすれば、時価評価による国債の含み損が自己資本残高を上回ることになりかねない。日銀がこれに束縛されることはないに違いない。だが、金融政策、あるいは円という通貨(為替)、国債などへの信頼性を低下させるという懸念が生じる可能性はないとはいえない。

■FRBは一歩踏み込んでリスクを取っている

 FRBは、「10月以降、経済活動は鈍化した」として、インフレより景気後退に先手を打って対応する姿勢をみせている。米国が新年に景気後退に陥る可能性が高いなら、利下げなど政策変更に踏み込むことも示唆している。いわば、半歩、もっといえば一歩ほど踏み込んでリスクを取っている。政策は経済(景気)の動きに柔軟に対応するという姿勢だ。

 これと比較すると日銀は「保守的」な姿勢が否めない。2022年~23年前半と世界がインフレに襲われた時期、世界は高金利政策に転換した。だが、日銀はマイナス金利にこだわり、過剰な「円安」を放置してきた。過剰な「円安」分のインフレを消費者に負担させたといわれても仕方がない。

 消費者がインフレに直撃されているにもかかわらず、日銀はまったく有効な手を打てなかった。日銀は、この7月に長期金利変動許容幅の上限を0・5%から1%に事実上引き上げた。インフレが大枠で峠を超えようとしていた時期に当る。この長期金利の事実上の引き上げが、巨額の含み損発生という事態につながっている。問題の本質といえるのは政策が経済の変化に対して柔軟性を欠き、リスクの取り方が一歩、二歩と遅れていることである。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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