【小倉正男の経済コラム】新工場ラッシュ「半導体ブーム」の火付け役

■「日経半導体株指数」スタート

 3月25日から「日経半導体株指数」の集計・公表がスタートする。東証に上場している半導体・半導体製造装置・電子部品など半導体部材の有力企業30銘柄の値動きを示す指数になる。

 米国では「SOX指数」(フィラデルフィア半導体株指数)が使われている。米国上場の主要半導体関連企業30銘柄を集計した指数である。「日経半導体株指数」は「SOX指数」の日本版ということになる。

 いまの日経平均株価を牽引しているのは半導体関連であり、指数=データが開示される意味は小さくない。データと情報は異なるという見方もあるが、データは即情報といえる面も否定できない。データ、情報をどう読み込むか、どう活用するかはそれぞれ個人に任される。データ、情報は多いほうが良いのは言うまでもない。

■中国に続いて米国、日本、欧州が半導体に巨額補助金

 「半導体ブーム」、世界が半導体新工場・研究所など設備投資に動き出している。米国は2022年8月にCHIPS法(CHIPS及び科学法)を成立させた。バイデン大統領は、インテルの先端半導体新工場を支援するために195億ドル(2兆9000億円超)という巨額補助金投入を明らかにしている。

 マイクロン・テクノロジー、ファウンドリー世界最大手・TSMC(台湾積体電路製造)なども新設備投資に補助金を獲得できる見込みとなっている。「先端半導体製造が40年ぶりに米国で復活できる」(バイデン大統領)という目論見が進行している。米国のみならず欧州でも23年に「CHIPS法」が制定された。欧州での半導体製造シェア増大に取り組むとしている。

 日本でも熊本県菊陽町で、TSMC第1工場が24年末稼働をにらんで開所式を通過している。TSMCは第2工場建設を決定し、さらに第3工場計画もあるとされている。「半導体ブーム」というか、不動産、人件費高騰で“菊陽町バブル”と取り沙汰されている。

 TSMCだけではなく、マイクロン・テクノロジー広島工場の先端半導体設備投資に支援が行われる。国内勢も負けていない。ラピダスが北海道千歳市で新工場建設を進めている。ラピダスは、25年試作、27年量産化をメドに先端半導体製造を目指すとしている。ロームなども宮崎新工場でsicパワー半導体増産に動いている。これらはいずれも日本政府の巨額補助金が投入される。

■「中国製造2025」の補助金ばら撒きが自らの落とし穴

 世界が軒並みに半導体新工場に動き出しているのには訳がある。実のところ中国・習近平主席の「中華民族の偉大な復興」の野望が関連している。

 15年に習近平主席は「中国製造2025」を発表している。習近平主席は建国100年を迎える49年に「世界の製造強国の先頭グループ入りを目指す」と宣言。要は中国の自前の半導体産業育成に乗り出している。「中国製造2025」では、25年までに中国国内の半導体自給率を70%に引き上げるという野心を明らかにしている。

 習近平主席の野望は、「米国に追いつき追い越す」だけではない。日本、台湾、韓国などを中国半導体産業の敵として、まとめて打ち負かすということにほかならない。

 しかも、中国は国内半導体関連企業に躊躇なく巨額補助金をばら撒くという手法を採用した。急ぎ過ぎというか、身もふたもない露骨な自国半導体の育成強化策である。

■中国という虎が眠っていた獅子の尾を踏んでしまった

 ただし、実体としては中国の半導体自給率は上がっていないのが現状だ。結果としては習近平主席の過剰な思いや自信が、自ら想定を超えた落とし穴をつくってしまうことになる。

 「中国製造2025」が米国、日本、台湾、韓国などの警戒を呼んだのは明らかである。米国、日本などは、資本主義を骨格としながら異例きわまる補助金を半導体関連産業に投入するに至っている。半導体は、「経済安全保障」どころか、「安全保障」そのものにほかならない。そこに火が付いてしまった。

 先端半導体、あるいは先端半導体関連製造装置、同電子部品など部材の中国向け輸出にも規制がかけられた。中国が喉から手が出るほど欲しいものが入ってこない。いわば、「先端半導体戦争」、先端半導体の囲い込みがすでに勃発している。

 言い換えると、習近平主席のあまりに急ぎ過ぎた野望の露呈がいまの世界的な「半導体ブーム」の発火点になっている。中国という虎が眠っていた米国、日本、台湾など獅子の尾を踏んでしまったということになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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