【小倉正男の経済コラム】アメリカの「ガラケー景気」、経済のサービス化に由来

■中国が波乱要因――ゾンビ企業が延命

 騰がったり下がったりは、株も為替もそれは定めのようなものだ。しかし、このところそれがかなり激しいのではないか。方向性が定まらない。

 アメリカの景気はよいが、中国、中東、欧州などがいまひとつ冴えない。

 とくに中国はバブルが崩壊しないから始末が悪い。「ゾンビ」「キョンシー」といわれる企業群が延命し、むしろバブルを膨張させている。ゾンビ企業退治どころか、借入金漬けでゾンビが生き延びている状況とみられる。

 原油価格が大底を打ったものの回復しきれない。これは中国の原油ガブ飲みがなくなったためで、いわば中国の景気停滞の実体を映している。

 中国は、GDP(国内総生産)で世界2位ということでにわかに大国として振舞っている。
 だが、資本も技術も外国に依存しており、その内実ははたして厳しいのが実情である。先々の世界経済にとって波乱要因になるのはいう必要がない。

■アメリカの景気が「ガラケー」である訳

 ところで、アメリカの景気は「ガラケー」であると指摘してきている(前回コラム参照)。
 アメリカのGDPの中身だが、消費が70%である。つまりは経済のサービス化が進んでいる――。

 アメリカは景気がよいからといって、原油をガブ飲みするような経済構造にはない。しかも、アメリカ国内にはシェールオイルがだぶついている。

 ちょっと以前までの中国の景気は、「世界の工場」の座を占めるといったオールド・モデルだった。
 中国の景気は、製造業によるモノの経済だから、原油価格を暴騰させた。原油だけでなく、鉄鉱石その他のありとあらゆる資源価格を上昇させたわけである。

 いまのアメリカの景気は、サービス経済によるものだから、原油など資源価格を上昇させる牽引力は乏しい。世界景気との連動性は、中国の景気とは根本的に異なり、さほど大きくはない。

 アメリカの経済構造は、中国のようなオールド・モデルではない。いわば、先進国型モデルにほかならない。したがって、資源価格などモノに対する景気の波及力は大きくない。
 アメリカの景気が「ガラケー」であるのは、そうしたサービス化した経済構造に由来している。

■世界全体の景気が上向くのはまだまだ先か

 アメリカの雇用は絶好調である。非農業部門雇用者数は、6月28.7万人、7月25.5万人、8月15.1万人と順調な増加をみせている。失業率は4.9%と極限まで低下している。
 ただ、賃金はさほど上昇せず、インフレにはなっていない。それだけに利上げをすべきか、利上げはしてはならないのか見方は分かれることになる。

 利上げをして「正常化」するという動きは、世界経済のデフレ化から勘案するとやや急ぎ過ぎなのかもしれない。
 かつての金利が正常で、いまのゼロに少し上乗せした低金利が異常なのか。あるいは、いまの低金利は、それはそれで正常なのか。

 アメリカの利上げの行方が見えづらいとするならば、そうした迷いがあるからだ。
――ともあれデフレが続く。となれば世界全体の景気が上向くのはまだまだ先ということにならざるをえない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■東京・愛知・兵庫で屋外広告も掲出、号外や無料バッティング企画も実施  Major League …
  2. ■新生児対象の臨床試験で抗炎症作用と菌叢改善を実証  森永乳業<2264>(東証プライム)は7月2…
  3. ■「日本栄養・食糧学会大会」で研究成果発表、科学的根拠を提示  味の素<2802>(東証プライム)…
2025年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■東証市場、主力株急落と中小型株逆行高で投資戦略二極化  証市場は9月19日に主力株の急落と中小型…
  2. どう見るこの相場
    ■プライム市場の需給悪化を警戒し、個人投資家は新興市場へ資金を逃避  「桐一葉 落ちて天下の秋を知…
  3. ■01銘柄:往年の主力株が再評価、低PER・PBRで買い候補に  今週の当コラムでは、買い遅れカバ…
  4. ■日米同時最高値への買い遅れは「TOPIXコア30」と「01銘柄」の出遅れ株でカバー  日米同時最…
  5. ■東京株、NYダウ反落と首相辞任で先行き不透明  東京株式市場は米国雇用統計の弱含みでNYダウが反…
  6. ■株式分割銘柄:62社に拡大、投資単位引き下げで流動性向上  選り取り見取りで目移りがしそうだ。今…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る