【小倉正男の経済コラム】いまの消費はEコマースを抜きには語れない

小倉正男の経済コラム

■「消費が悪い」「好景気の実感がない」という常套句

 アベノミクスの評価にかかわるのだが、企業業績は史上最高の決算が相次ぐ勢いである。

 企業は、利益が出ても、これまでは利益剰余金など内部留保を溜め込むばかりだった。設備投資も手控え、増配も賃上げもしない。企業経営者は、ひたすら脇を締めるのみだった。

 だが、企業はようやくここにきて、増配といった株主還元にも踏み出す見込みである。賃上げにも消極的だったが、これもさすがに重い腰を上げる気配が出てきている。
 増配すれば、次は賃上げということになるのは当然の動きである。そして、設備投資にも動意が出てきている。

 求人倍率も上がるばかりで、雇用も高水準である。つまり、景気は悪くない――。

 「消費が悪い」「好景気の実感がない」――、そうした言葉がメディア、すなわち新聞、雑誌、テレビから流されている。常套句というか、同じパターンで何年も語られている。メディアは“庶民の味方”というわけだが、はたして事実はどうだろうか。

■いまの消費は百貨店、スーパー、コンビニだけではない

 好きだ、嫌いだとか、あるいは思想、信条だとか、いろいろなもので縛られた頭で物事を見ると間違うことがある。できるだけ頭を自由にして物事を見なければならない。

 確かに、百貨店、専門店、スーパー、コンビニなどのリアル店舗の売り上げだけを見ていたら「消費が悪い」ということになる。
 百貨店、専門店、スーパーは統廃合や閉店となるところが出ている。コンビニも再編成が進行して統廃合などが進行している。

 しかし、ネット通販、ネットショッピング、あるいは「ふるさと納税」などを含めたEC(Eコマース)は拡大するばかりである。ECの拡大で、物流面では配送する量に人手が追い付かずパニックになるほどである。

 つまり、ECといったバーチャル店舗の売り上げをベースにすると「消費はよい」、あるいは「消費は悪くない」ということになる。

■ザ・パック=EC向け包装箱の成長で過去最高益

 現代の消費は、リアル店舗だけではなく、バーチャル店舗の動向を含まないと、一概に良いとか悪いとかいえない。バーチャル店舗での消費は、年を追って急激な拡大をとげている。

 そんなことを思ったのは、紙加工品の有力企業であるザ・パック(東証1部)の売り上げ動向からである。ザ・パックの主力商品の百貨店向けのショッピング用紙袋の需要は、横ばい~微増がとなっている。
 百貨店向け紙袋は、インバウンド関連の“爆買い”に救われてきたが、それでも微増維持が精一杯である。

 ところがEC(Eコマース)向けの包装箱は需要が旺盛で、成長期に突入している。包装箱は、2016年あたりから成長が顕著となり、ザ・パックの業績に貢献している。ザ・パックは過去最高益更新――。

 包装箱とは、宅配便などで自宅に届けられる商品が梱包されている茶色や白色の段ボール加工品である。先々はこの包装箱が、ザ・パックの主力商品になりそうな勢いだ。
 余談だが、ちなみにザ・パックは、この包装箱にデザインなど意匠を施して美粧性のある商品に進化させる戦略を進めている。

■「消費は悪い」――、はたしてそれは真実か

 包装箱が降って沸いたように成長軌道を描いたのは、ECの売り上げ拡大と軌をいつにしている。

 いまでは若い人たちなどは、パソコンやスマホでカタログをチェックして、ネットであらゆる商品を購入している。
 なかには通勤電車のなかでスマホを使ってショッピングをするというライフスタイルも出てきている。

 いまの消費動向は、ネットショッピングという膨大な「ステルス」部分を抱えている。「消費が悪い」――、はたしてそれは真実か。

 いまの経済のファンダメンタルでの変化を感じなければ、“景気の実感”はいつまでも持てないことになる・・・。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)

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