【小倉正男の経済羅針盤】ユーロ圏=再生には「辛抱強さ」が必要、どこかと違ってギリシャは大人の「ネゴシエートル」

ラチがあかないとはEU(欧州連合)=ユーロ圏経済におけるギリシャ問題である。ギリシャは、債務返済などが迫ると「流動性が不足している」、つまり、「ないものはない」と資金不足を逆手に取って支援を訴える。これがEUには揺さぶりになる。EUは、財政緊縮策など経済再生の筋道を示せとギリシャに要請する。

EUとしても、ギリシャを破綻させるわけにはいかない。資金を支援して、とりあえず債務返済させて「先送り」を図る。それを繰り返している。

ギリシャはどこかの国の隣国と違って、「ネゴシエートル」としてはかなり優秀な部類といえるかもしれない。よくいえば「大人」、交渉と落し所をわきまえている面もあるようだ。
ドイツに財政緊縮など構造改善策を詰め寄られると、「ナチスドイツによる損害賠償」「ロシアに接近し支援を要請」など、筋の異なる問題を持ち出したり動いてみたり・・・。

「それとこれは違う問題ではないか」、とドイツが苦虫を噛み潰しても問題をバラけさせる。しかし、収めるところは収める――、EUから離脱・脱退するなどといった破滅的な行動はとらないとみられる。

ギリシャにしてもEUにしても、いまはそれしかやり様がないというところか。

■ユーロ圏からのギリシャの「スムーズな離脱」とその現実

ドイツのガブリエル経済相など、「わが国は(ギリシャが)立ち直り、私の個人的な強い見解としてはユーロ圏にとどまるよう支援する用意がある。――だが、どうやって実現できるのか、なお私には明確ではない」と発言している。

あまりにも率直すぎて、ウソでもそれはいわないでほしいみたいな発言である。

ドイツ政府はともかくとして、ドイツ国民レベルではギリシャへの「支援疲れ」が顕著だ。「ギリシャを共通通貨ユーロから離脱させろ」「ギリシャと一緒に仕事をするのはもうコリゴリだ」、という意見が多数を占めるにいたっている。

ドイツとギリシャが共通通貨ユーロを使っているのがどだい無理な話ではないか――。

ギリシャがユーロ圏から離脱すれば、ギリシャは独自の通貨・財政・金融を取り戻せる。ドイツに財政緊縮化を迫られたり、怒られたりすることもない。ドイツも「支援疲れ」から開放される。それはよい、と離脱案が取りざたされたりしている。

はたしてギリシャのユーロ圏経済からの「スムーズな離脱」が検討されたが、結局そのような妙案はありえない。

ユーロ圏経済からギリシャを切り離せば、ギリシャは即日破綻する。そればかりかギリシャ国債デフォルト(債務不履行)でユーロ圏金融はたちまち破滅的状態に陥る――。

■ユーロ圏をひとつの国家=財政、国債を統合して共通化する議論はあるが

ユーロ圏の離脱・分裂、とは反対のベクトル(方向)も議論されている。
通貨だけ共通化しているところに大きな「欠陥」があるという見方からだ。ユーロ圏諸国の財政を一本化して共通のものにして、さらには国債も共通化する。

つまりはユーロ圏をひとつの国家に統合するというベクトルである。これは一歩踏み出した議論だ。

通貨ユーロだけでは足りない。財政、国債も統一し共通のものに一体化を図る。

併せて労働市場も共通化し、景気の悪い地域(国)から景気のよい地域(国)に仕事を求めて人々が移動できるようにする。ユーロ圏経済の「欠陥」をこれにより是正するという試みだ。

しかし、財政を統合すれば、財政のよい国は不利益になり、財政の悪い国は有利になる。
共通国債も、例えばドイツのような国は相当に割高な金利での発行を強いられる。ギリシャなどは割安な金利で発行できる。

公正とはいえない――。しかも利害が明白に対立する。これはすんなりとはまとまらない。

労働市場の共通化にいたってはそれこそ簡単ではない。移民への反対や嫌悪は、現状でも根強いものがある。移民への反対や嫌悪が爆発する可能性がある。

EUをひとつの国家、ひとつの屋根の下で生活する「EU合衆国」にする、というのもかなり困難にみえる。

■世界経済の回復を「辛抱強く」待つしかない

確かにいまはギリシャを含むユーロ圏経済再生の道筋が明確にみえない。

結局、アメリカなど世界経済の本格回復を待ち、ユーロ圏経済の持ち直しを図り、ギリシャ経済を底入れさせていくしかない。

ユーロ圏経済では、いわゆる「南北格差」があり、南欧諸国内の一部に離脱を求める動きがないではない。しかし、それは「不満」という段階であり、EUが以前に逆戻りしてバラバラになるということはないとみられる。

ユーロ圏経済は、国家という枠を超えた「大いなる実験」の面がある。ギリシャ問題などもその過程で突発した事件・事故といえるだろう。

アメリカの利上げでは「辛抱強く」という文言が削除されたが、ユーロ圏経済ではまさにその「辛抱強く」が求められる。みえない時にはじっと待つしかないのではないか。

(経済ジャーナリスト小。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数)

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