【小倉正男の経済コラム】T・ルーズベルトの日露戦争調停とは大違い 米露会談

■プーチン大統領は「全面停戦」を拒否

 「米露会談」、トランプ大統領とプーチン大統領の電話会談は2時間~2時間半に及んでいる。

 肝心の「ウクライナ戦争」和平では、トランプ大統領が提案した「30日間全面停戦」をプーチン大統領は拒否。トランプ大統領が事前にウクライナのゼレンスキー大統領に受諾させていた案だが、あっさり否定されている。

 これではトランプ大統領の顔が立たないということか、「30日間エネルギー施設への攻撃停止」を合意している。“停戦“としては、中身がほとんどない。エネルギー施設攻撃除外も保証の限りではないが、それ以外は戦争継続である。一方ではプーチン大統領は、トランプ大統領にウクライナへの軍事支援、軍事機密情報提供の停止を要求している。

 「私なら1日で終わらせることができる」――、トランプ大統領は大統領選挙期間などにプーチン大統領のウクライナ侵攻は、「(自分が大統領であれば)即時に終了させられる」と豪語してきた。大統領執務室で激しい「口論」(悪態)事件を起こしてまでこぎつけた停戦交渉だが、結果はほとんどはかばかしくない。

■和平調停より自国の権益追及に熱心?

 それでもトランプ大統領は、「素晴らしい会談ができた」とFOXニュースに語っている。プーチン大統領は、ロシアが占領しているウクライナ東部南部4州のレアメタル(希少金属)など鉱物資源の共同開発ビジネスなどを持ちかけている節がある。

 会談の趣旨は和平調停、トランプ大統領は停戦の仲介・調停者なのだが権益をぶら下げられるとディールにはまり込む。調停どころか、権益に目を奪われる。元をただせば東部南部4州はウクライナ領土であり、ウクライナは主権を放棄しているわけではない。その東部南部4州の権益に会談が誘導されているとすれば、利益相反の極致である。

 トランプ大統領は、ゼレンスキー大統領にウクライナのレアメタルなど鉱物資源の50%(5000億ドル相当)提供を要求している。米国はウクライナに3500億ドルの軍事支援を行っているというのだが、これは根拠がない。軍事支援は、多くてもこの半分、あるいは3分の1内外。しかし、トランプ大統領は5000億ドルという法外な鉱物資源を要求している。どちらかといえば権益追求にむしろ露骨な意向をみせている。

■日露戦争を調停したセオドア・ルーズベルト大統領との対照

 これは自国第一の「アメリカ・ファースト」ならではのやり方というしかない。巨額の軍事支援を行ったのだから、それに見合う権益を提供しろとしている。自国の利益が最優先であり、公正、正義、善悪などは低位要件でしかないという考え方だ。

 ロシアのウクライナ侵攻開始時(22年)、トランプ氏は大統領の地位を失っていたのだがプーチン大統領を「天才」と賞賛している。自国第一からの賞賛なのか不明だが、相当以前からロシア寄りの傾向をみせている。最近では、ロシア・クルスク州で「ウクライナ軍が包囲されている」などロシア側情報を丸呑みしたような発言を繰り返している。

 セオドア・ルーズベルト大統領は日露戦争の講和を調停したことで知られる。セオドア・ルーズベルト大統領は、ポーツマス講和条約を仲介したことで日露両国に満州鉄道、シベリア鉄道の権益のいくばくかを渡せと要求などしていない。

 セオドア・ルーズベルト大統領は日露戦争講和の斡旋・調停を果たし、その功労で翌年にノーベル平和賞を受賞している。米国大統領としては最初の受賞、しかも現職での受賞者になっている。

 そのセオドア・ルーズベルト大統領にして、日露戦争講和では日露の勢力均衡を念頭に置いている。ロシアには満州など東進への警戒、一方で日本の満州への西進など台頭の懸念を考慮している。セオドア・ルーズベルト大統領は、ポーツマス講和を斡旋しながらも米国の国益は忘れなかった。ただし、いうまでもないが露骨なディールなどは行っていない。トランプ大統領の「ウクライナ戦争」調停とは、そこが大きく対照をなしている。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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