【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領「たったの25%」関税を課すと通知、日本はスタグフレーションの奈落に直面

■「守るべきものは守る」「舐められてたまるか」と言っても

 参議院選挙(7月20日)は目前に迫っている。石破茂首相には最悪のタイミングにほかならない。トランプ大統領が送付してきた書簡には、8月1日から米国に輸入される日本製品には25%関税を課すと通知されていた。

 石破首相の最側近といわれる赤沢亮正経済再生担当相が7回に渡って「日米関税協議」を行ったとされている。その都度、「非常に突っ込んだやり取りがあった」「合意の可能性を探った」「真摯に対応していただいている」と報道されていた。だが、何を協議していたのか。結果は目を当てられないものになっている。

 「国益をかけた戦いだ。舐められてたまるか。同盟国であっても正々堂々言わなければならない。守るべきものは守る」。石破首相は、参院選挙の街頭演説でそのように発言している。「給付」VS「減税」ではなく、「反トランプ関税」に争点をシフトさせている。

 自民党は、選挙戦術を見直して「反トランプ関税」という感情論を持ち込んだという見方がある。給付、減税という損得から、「ナショナリズム」という感情・心情に訴える戦術に切り替える。参院選の手詰まり感が強いことから戦術を組み替えたとみられる。

 だが、「守るべきものは守る」といっても、4月に公表された24%の相互関税どころか、8月からはそれに1%上乗せの25%関税を課せられる。「舐められてたまるか」は感情移入の参院選用発言とみられる。協議の余地は僅かに残っているが、トランプ大統領からしたらすでに見限っている、あるいは結果として舐めているということになるのではないか。

■思い切れないなら「たったの25%」を甘受するしかない?

 トランプ大統領の書簡にある「たったの25%の関税を課す」という表現もかなり問題含みだ。米国の24年対日貿易赤字額687億ドルなどとの比較から、「たったの25%の関税」という文脈になったとみられる。しかし、25%関税というのは普通の感覚では高関税であり、穏当な言葉とはいえない。

 しかも品目別の自動車・同部品への25%関税、鉄鋼・アルミへの50%関税はすでに発動されている。さらに8月1日からは銅についても50%関税を追加する。これも「たったの25%」「たったの50%」ということなのか。このあたりも石破首相の「舐められてたまるか」「侮ってもらっては困る」という感情論につながっているのかもしれない。

 ただ、感情論では交渉は進められない。むしろ足元を見られるだけだ。問題なのは日米関税協議で25%相互関税、自動車・同部品の25%品目別関税などを覆すカード(交渉材料)を切っていないことだ。思い切ってカードを切るか。国内の軋轢から思い切れないならトランプ大統領の「たったの25%」の高関税を甘受するしかない。

■自動車・同部品、半導体製造装置などは輸出価格切り下げて出荷

 石破首相は、日米関税協議を「国益をかけた戦い」と演説している。首相、メディアなどからすると「国益」というナショナリズムの概念になる。だが、企業からすれば「生き残れるか」という問題だ。「国益」も重要だが、まずは「私益」追求が先決事項になる。

 この5月の日本の対米国向け輸出(貿易統計速報・金額ベース)は1兆5140億円(前年同月比11.1%減)。品目別では自動車24.7%減、同部品19.0%減、半導体など製造装置33.8%減などが急低下。日本企業は日米関税協議に対して成果は期待していなかったのか、確定的サンプルとはいえないものの輸出価格を切り下げて出荷(船積み)している。

 日本企業は関税分の価格転嫁を手控え、米国での販売価格上昇を抑えることで販売数量確保(シェア維持)を優先させている。いわば伝統的な手堅い価格戦略を採っている。これではトランプ大統領、ベッセント財務長官などの思う壺なのだが、それがいま把握できている現実だ。

 「トランプ関税」のもたらすものは近隣窮乏化、あるいは世界窮乏化であり、日本への打撃は凄まじい。日本はインフレとデフレが同時進行するスタグフレーションに直面する。「舐められてたまるか」「侮ってもらっては困る」など強がっていても奈落に沈み込んでいくのは間違いない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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