科研製薬、減収減益予想も戦略投資拡大により競争力向上へ、長期経営計画実現に前進

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 科研製薬<4521>(東証プライム)の26年3月期中間期の連結業績は減収減益だった。前期の増収要因だった「NM26」の知的財産譲渡および販売提携オプション契約に係る契約一時金収入の反動、薬価改定や競合の影響に加え、研究開発費の増加も影響した。通期については減収減益予想(9月26日付で下方修正)としている。国内医薬品の売上高が競合品の影響で前回予想を下回る見込みとなったほか、新たなライセンス契約締結に伴う契約一時金支払いで研究開発費が前回予想を上回ることも影響する。

■医療用医薬品・医療機器メーカー

 医薬品・医療機器、農業薬品などの薬業、および文京グリーンコート関連などの不動産事業を展開している。

 主要な医薬品・医療機器は、爪白癬治療剤のクレナフィン群、関節機能改善剤のアルツ、癒着防止吸収性バリアのセプラフィルム、褥瘡・皮膚潰瘍治療剤のフィブラスト、原発性腋窩多汗症治療剤のエクロック、歯周組織再生剤のリグロス、腰椎椎間板ヘルニア治療剤のヘルニコア、およびジェネリック医薬品である。

 23年8月には壊死組織除去剤ネキソブリッド(イスラエルのメディウンド社から導入、海外製品名NexoBrid)の発売を開始、24年3月にはエーザイ<4523>より医療用医薬品2製品(メリスロン、ミオナール)の日本国内での製造販売承認を承継する契約を締結した。24年5月には、静岡工場(静岡県藤枝市)内に農業薬品事業の発酵農薬原体製造工場を建設(着工25年11月、竣工27年7月、稼働開始27年11月予定)すると発表した。[貴野1]

■M&A・アライアンス

 M&A・アライアンス関連では、21年12月に国内バイオベンチャー企業のアーサム・セラピューティクス社を子会社化、23年3月にbitBiomeと感染症治療薬創製に関する共同研究契約を締結した。25年3月には米国Aadi Subsidiary, Inc.(現Aadi Bioscience, Inc. 、Aadi社)を子会社化した。Aadi社は希少疾病の「局所進行した切除不能/転移性の悪性血管周囲類上皮細胞腫瘍」の治療薬FYARROを販売している。

■開発パイプライン

 25年11月10日時点の主要な開発パイプラインの状況として、自社創薬・導入品ではアタマジラミ症を適応症とするKAR(アーバー・ファーマシューティカルズ社から導入、海外製品名Sklice)は第3相段階、難治性脈管奇形を適応症とするKP-001(自社創薬)は第3相段階、原発性胆汁性胆管炎を適応症とするKC―8025(一般名Seladelpar)(シーマベイ・セラピューティクス社、現ギリアド・サイエンシズ社から導入)は第3相段階、尋常性乾癬を適応症とするESK-001(アルミス社から導入、25年3月に日本におけるライセンス契約締結)はアルミス社が日本を含む国際共同試験を実施しており第3相段階、遺伝性血管性浮腫の長期予防薬ナベニバルト(米国アストリア社から導入、25年8月に日本におけるライセンス契約締結)は第3相段階、固形がん(がん免疫療法)を適応症とするKP-483(自社創薬)は第1相段階、末梢性神経障害性疼痛を適応症とするKP-910(自社創薬)は第1相段階、先天性副腎過形成症を適応症とするチルダセルフォント(スプルース・バイオサイエンシズ社から導入)は第1相段階である。

 なおKP-001について、25年11月に国内第3相検証的試験の結果を公表した。現在実施中の国内第3相長期投与試験の結果を踏まえ、26年度の製造販売承認を目指す。米国では第3相実施に向け準備中である。

 次世代の経口2型炎症性疾患(アトピー性皮膚炎、喘息など)治療薬として前臨床段階にあるSTAT6阻害剤(開発記号:KP―723)を含むSTAT6プログラムについては、24年12月にグローバルにおける開発・製造および商業化に関する独占的ライセンスを米国Johnson & Johnson(以下、J&J社)に許諾するライセンス契約を締結した。日本国内では科研製薬が本プログラムで開発される製品の商業化に関する権利を保持し、第1相試験完了まで進める。

 その他の開発状況として、遺伝性血管性浮腫を適応症とするセベトラルスタットについては、25年4月にカルビスタ・ファーマシューティカルズ社と日本におけるライセンス契約を締結し、ライセンス元のカルビスタ・ファーマシューティカルズ社が日本において製造販売承認申請中である。米国および欧州では承認を取得(海外製品名Ekterly)している。

 軟骨欠損を伴う変形性膝関節症を適応症とする同種(他家)滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織gMSC(R)1(再生医療等製品、広島大学初のバイオベンチャー企業であるツーセル社から導入、25年6月に日本国内の整形外科領域における共同開発・独占的販売に関するライセンス契約締結)は第3相準備中である。ツーセル社が製造販売承認取得に向けた開発を実施する。

 アトピー性皮膚炎を適応症とするNM26については、24年5月にJ&J社の関連会社であるスイスのシーラグ社と知的財産譲渡および販売提携オプション契約を締結し、J&J社が臨床試験を実施しており第2相段階である。J&J社が日本で承認取得するすべての適応症について販売提携契約を交渉するオプション権を有している。

 三洋化成工業<4471>が開発した新規の創傷治癒材料シルクエラスチン創傷用シート(医療機器)(24年10月に日本での販売に関するライセンス契約を締結)については、25年4月に三洋化成工業が薬事承認を取得した。

 海外導出では、爪白癬治療剤クレナフィンついてはアルミラル社が25年3月にイタリアで製造販売承認取得、25年8月にドイツで製造販売承認取得したほか(海外製品名Jublia)、AIM社が中国で第3相段階である。原発性腋窩多汗症治療剤のエクロックについてはドンファ社が25年8月に韓国で販売承認取得した。

 また24年11月にスイスのニューマブ社と、炎症性腸疾患を対象疾患とする新規多重特異性抗体医薬「ND081」に関する共同研究契約を締結した。そして25年11月にスイスのニューマブ社と、炎症性腸疾患(IBD)を対象疾患とする新規多重特異性抗体医薬「NM81」(旧開発コードND081)に関するライセンスおよび共同開発契約を締結した。これにより、24年11月に締結した共同研究契約に付随するオプション権に基づくアジアの特定の地域における「NM81」の販売権を取得した。科研製薬は臨床PoC取得までの開発費の大部分を負担し、ニューマブ社は非臨床および臨床開発の主要な実施主体となる。

■26年3月期中間期減収減益、通期予想を下方修正

 26年3月期中間期の連結業績は売上高が前年同期比23.4%減の393億56百万円、営業利益が99.0%減の2億03百万円、経常利益が96.9%減の6億07百万円、親会社株主帰属中間純利益が93.0%減の9億92百万円で減収減益だった。前期の増収要因だった「NM26」の知的財産譲渡および販売提携オプション契約に係る契約一時金収入の反動、薬価改定や競合の影響に加え、研究開発費の増加(95.4%増の116億72百万円)も影響した。

 薬業(医薬品・医療機器、農業薬品)は売上高が24.1%減の380億82百万円で、営業利益が4億79百万円の損失(前年同期は189億03百万円)だった。売上高の内訳は医薬品・医療機器(国内・海外)が25.8%減の357億73百万円、農業薬品が18.5%増の22億18百万円、その他が99.7%増の90百万円だった。また海外売上高(医薬品、農業薬品)は68.6%減の51億99百万円だった。不動産事業(文京グリーンコート関連賃貸料など)は売上高が4.2%増の12億74百万円で営業利益が0.9%増の6億82百万円だった。

 国内主要医薬品・医療機器の売上高(単体ベース)は、クレナフィン群が1.5%増の93億13百万円、アルツが5.8%減の92億33百万円、セプラフィルムが1.3%減の35億19百万円、フィブラストが8.5%減の11億43百万円、エクロックが12.4%増の15億29百万円、リグロスが6.3%減の4億34百万円、ヘルニコアが61.7%減の78百万円、ジェネリック医薬品が12.8%減の37億31百万円だった。

 通期の連結業績予想(9月26日付で下方修正)は、売上高が前期比8.2%減の863億円、営業利益が90.0%減の21億円、経常利益が86.8%減の28億円、親会社株主帰属当期純利益が83.5%減の23億円としている。配当予想は前期と同額の190円(第2四半期末95円、期末95円)としている。

 前回予想(25年5月12日付の期初公表値、売上高880億円、営業利益52億円、経常利益60億円、親会社株主帰属当期純利益34億円)に対して売上高を17億円、営業利益を31億円、経常利益を32億円、親会社株主帰属当期純利益を11億円、それぞれ下方修正した。国内医薬品の売上高が競合品の影響で前回予想を下回る見込みとなったほか、新たなライセンス契約締結に伴う契約一時金支払いで研究開発費が前回予想を上回ることも影響する。なお修正後の研究開発費の計画は、前期比35.6%増の254億円(期初計画は11.6%増の209億円)としている。

 また修正後の国内主要医薬品・医療機器売上高の計画(単体ベース)は、クレナフィン群が21.7%減の132億円、アルツが4.9%減の181億円、セプラフィルムが0.7%増の70億円、フィブラストが9.6%減の22億円、エクロックが17.8%増の24億円、リグロスが2.4%減の9億円、ヘルニコアが25.9%減の3億円、ジェネリック医薬品が8.2%減の78億円としている。

■長期経営計画2031

 2023年3月期から10か年の長期経営計画2031については、経営環境の変化や計画の進捗を踏まえ、25年4月に一部見直しを公表した。見直しの考え方として、企業価値向上には画期的・革新的新薬の継続的な上市が不可欠のため戦略投資を増額するほか、業績やキャッシュ・フローの不確実性およびボラティリティの高まりを見据えつつ財務規律を維持する。また重要なステークホルダーである株主・投資家への株主還元を強化する。

 業績目標としては32年3月期の売上高1000億円、営業利益285億円、ROE10%以上、海外売上高比率30%以上を掲げている。研究開発では10年間で8品目上市(P1以降PJ常時6品目以上をP1以降PJ常時8品目以上に変更)するためのパイプラインを確保する。戦略投資計画については10年間で2000億円以上を2600億円以上に変更した。株主還元方針では25年3月期の配当190円を下限としつつ、従来の配当性向30%以上・総還元性向50%以上を維持する。また今後7年間で株主還元総額500億円以上を見込んでいる。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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