「後出しじゃんけん」の心配がない電力小売完全自由化関連株は新年度にイベント相場の第2幕目を期待=浅妻昭治

編集長の視点

<マーケットセンサー>

 まるで「後出しじゃんけん」である。この時間差攻撃では勝てるわけがない――黒田東彦日銀総裁は、そう苦笑いしているのではないかと想像したくなる。今年3月10日から相次いで始まった中央銀行イベントの勝敗である。まずECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が、10日の理事会後に追加金融緩和策を発表し、わが黒田日銀総裁も、15日の金融政策決定会合で現状維持を決定して続いたが、最後に16日のFOMC(公開市場委員会)後に、金利引き上げ見送りを発表したイエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長だけが、得意満面の笑顔をみせたようだったからだ。

 金利引き上げを見送った米国ニューヨーク市場では、為替相場が一時、1ドル=110円台と円高・ドル安に振れ、ダウ工業株30種平均株価も、1万7602ドルと6営業日続伸し、昨年12月29日終値にあと118ドルと迫った。これに対してわが東京市場は、日経平均株価が、4日続落して再び25日移動平均線を前に下値を確認する展開となり、昨年大納会の終値1万9033円は、またまた遠ざかってしまった。日米株価の行き違い、落差は著しい。

 ぜひ黒田総裁には巻き返しを願いたいものだが、手立ては限られそうだ。まず思い出すのが今年2月11日の為替変動である。この日の取引時間中の為替相場は、瞬間風速で1ドル=110円台の円高=ドル安場面があって、引けにかけ2円程度の円安へと引き戻したが、このときにマーケットで噂されたのが為替相場への覆面介入であった。イエレン議長の術策にはまってさらに円高・ドル安が続くようなら、口先介入だろうが覆面介入だろうが、「仁義なき戦い」を要望したい。続くのが、マイナス金利導入時や15日の記者会見でも黒田総裁が強調したポートフォリオ・バランス効果である。とくに今週は、3月の年度末目前であり、4月の新年度入りも控える。いわゆる期末の「お化粧買い」と新年度のニューマネー流入期待が高まるタイミングであり、年金基金などの公的ファンドの尻を大いに叩いて欲しいところだ。

 これと別に、もう一つマーケットの自助努力として期待したいのが、新年度に予定されているイベントを先取り、関連株買いのインパクトで投資家心理が改善、ポジティブ姿勢が高まることである。新年度の最大のイベントといえば、すでに新聞、テレビなどで盛んに取り上げられている4月1日からスタートする電力小売完全自由化である。この自由化によって開放される6兆9000億円の低圧・家庭用電力市場を目指し、すでに監督官庁の経済産業省に事前登録された210社の小売電気事業者が、てぐすねを引いていることからして当然だろう。

 ただ悩ましいのは、肝心の経産省が、この規制緩和策に対して政策督励的なのか政策抑制的なのかどちらにもとれる指針や予測調査などを公表していることである。これは、経産省に電力自由化に関してトラウマ(心的外傷)があるためだと推測している。トラウマとは、例の2012年7月に導入された再生エネルギーの固定価格買取制度を巡って起こったドタバタである。申請当初から利権転売目的の参入事業者が後を絶たず、2014年9月に九州電力<9508>(東1)が、新規契約を中断し受け付けていた申し込みの回答を留保したことから、株式市場では、再生エネ関連株が軒並み急落してしまった。この結果、経産省に対しては固定価格買取制度の制度設計ミスとの非難が轟々と起こったのである。

 また今回の電力小売完全自由化を前にしても、今年3月11日に特定規模電気事業者(PPS)の日本ロジテック協同組合(東京都中央区)が、今年3月末で事業を停止し、自己破産申請の検討を表明した。電力コストが逆ザヤになって資金繰りが悪化、地方公共団体などへの買電料金が未払いとなってことなどが原因だが、小売電気事業者の登録が受けられず、今年4月以降の事業継続が困難となったことも引き金となった。

 こうしたやや逆風もあるなかでの新年度イベントであり、投資家心理が改善する展開になるか不透明な面も否定できない。しかし、少なくとも悪材料は事前に織り込み済みで「後出しじゃんけん」の心配はないうえに、目立たないながらも、すでにこれまで先取りの動きが活発化した潜行実績もある。例えば、2014年10月に急落した再生エネ関連株では、サニックス<4651>(東1)は、今年2月の昨年来安値119円から3月15日の264円高値まで2.2倍化、同様にグリムス<3150>(JQS)も27%高、エナリス<6079>(東マ)も65%高、省電舎<1711>(東2)は、ストップ高を交えて35%高しており、ここはこうした銘柄も含めて新年度入り後のイベント相場第2幕目開幕を期待しての関連株買いも一考余地がありそうだ。(本紙編集長・浅妻昭治)

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