【小倉正男の経済コラム】新型コロナ禍:「奇妙な勝利」の危険すぎる現実

小倉正男の経済コラム

■「奇妙な勝利」を誤認してはならない

 3月からずっとテレワークということで、久々に「リアルワーク」で東京に出てみた。人の動きが以前に戻っている。いわば、電車を含めて「3密」となっている。

 国も東京都も新型コロナウイルスでの「奇妙な勝利」に奇妙な自信を持ち過ぎているのではないか。

 「奇妙な勝利」は褒め言葉ではないのに、褒められたと思っている模様だ。「最悪の想定」どころか、相変わらず「最善の想定」で人々を動かしている。

■日本は「危機管理」ではボロボロな実体

 7月2日、新型コロナ感染者数だが、緊急事態宣言解除後で最悪な記録となった。東京都が107人、全国で196人――。それでも国などは検査を拡充した結果だと政策の「無謬」を強調している。

 野村克也氏(故人)の「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」ではないが、「不思議な勝ち」にたまたま恵まれたことを誤認してはならない。

 もっとも批判や文句しか取り柄がないような野党がやっていたらもっと酷いことになっていたかもしれない。そうした低レベルといっては申し訳ないが、政府・与党も「危機管理=クライシスマネジメント」ではボロボロである。

■二兎を追う「二正面作戦」の罠にはまる

 5月14日のこの「経済コラム」で、新型コロナ封じ込めと経済再開を急ぐという動きについて、「二兎を追えば一兎も得ず」と指摘した。

 本来は、緊急事態宣言を3月、4月初めの段階で実施して、しかも強制力をある程度担保するようなやり方で新型コロナ封じ込めを徹底する必要があった。まずは新型コロナという「一兎を叩く」のが先決だった。ところが、この「各個撃破」が不十分だった。

 そのうえ経済再開を急いだ。お坊ちゃまの集団なのか「奇妙な勝利」依存症なのか、やることが少し甘すぎる。

 東京都で新型コロナ感染者が一日50人を超えるということはすぐに100人超になるリスクを抱えていることにほかならない。100人超になれば、200人超に爆発するのは目に見えている。中途半端な「二正面作戦」、二兎を追うという罠にはまろうとしているように見える。

■「負けに不思議な負けなし」の例えあり

 もともと「二正面作戦」というのは難しいものだ。「負けに不思議な負けなし」につながりかねない。そんな難しい作戦を実行できると思っていること自体が危険極まりないということなる。

 今川義元の桶狭間では、上洛作戦なのか尾張攻略なのか戦略目標が曖昧だったことが敗因として指摘されている。ミッドウェイ作戦では、敵空母殲滅なのかミッドウェイ島攻略なのか、これも戦略目標が曖昧だった。

 経済再開が戦略目標であるならば、新型コロナを徹底して封じ込める作業を先行させることが不可欠だった。これが「遅い、緩い」では少し幸運に頼り過ぎている感が否めない。

 新型コロナ禍がぶり返しているのに、「解散総選挙」、あるいは「ポスト安倍」ということで政局めいたことに先走っている。ボヤきばかりになるが、日本の政治というものも薄っぺらいというか、懲りないものである。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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