【どう見るこの相場】インフレはモノ?それともカネ?高配当利回り・キャッシュリッチ銘柄で新常態にも備え

 下世話に「お医者さんより先にお坊さんがきた」という。これは、急病人が出たときなどの非常事態の際の手順のチグハグ感を表した例え話である。普通、誰かが発病するとまず病人の枕元に駆け付けるのはお医者さんで、病気を診断し治療に精を出す。しかし薬石効なく病人が万が一となった場合、続いて枕元に呼ばれるのは、故人を弔うお坊さんでお経をあげてもらうことになる。ところが、お医者さんより先にお坊さんが駆け付けてしまい、万が一を先取りする手順前後が起こってしまうことを皮肉っている。

 現在の米国の金融マーケットを海のこちらから素人目でみていると、どうもこの下世話な例え話を連想してしまう。米国経済は現在、インフレという病気である。枕元に付きっ切りなのは、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長で、お医者さんよろしく「インフレ・ファイター」として次から次と治療法を施術中だ。前週13日に発表された6月の消費者物価指数が、前年同月比9.1%上昇と40年半ぶりの高い伸びとなったことから、7月26日から開催予定FOMC(公開市場委員会)での政策金利の引き上げ幅は、0.75%どころか1%に引き上げられるショック療法の観測も出た。

 ところがマーケットは、この政策金利の引き上げを招いたインフレそのものでなく、早くも政策金利引き上げによるオーバーキルによるリセッション(景気後退)を先取りして、ダウ工業株30種平均(NYダウ)は、今年1~6月の上半期に15.3%も下げ、60年ぶりの大きな下落率となってしまった。まさに下世話の例え話のように、米国経済の枕元にはお医者さんよりマーケット参加者の鎮魂を祈るお坊さんならぬ、米国なら神父さんか牧師さんが沢山集まっているような状況のようである。東京市場が3連休中の前日18日には、NYダウは、取引時間中の350ドル高から大引けでは215ドル安と反落して引け大荒れとなったようだが、これもリセッションが、ソフトランディングで済むのか、ハードランディングを強いられるかでマーケットが揺さぶられている結果に違いない。

 手順が前後するからアセットアロケーション(資産配分)にも歪みが生じているのかもしれない。例えば「インフレはモノ、デフレはカネ」という資産形成・防衛のためのイロハ中のイロハのパラダイム(規範)である。インフレは、カネの価値がドンドン減価するのだからこのヘッジ資産として浮上するのはモノのはずである。ところがこのモノの価格が、このセオリーに反して下落が止まらない。原油先物価格、金価格、コモディティ価格とも今年前半の高値からは大きく値を崩している。この価格下落は、ロングポジションを取ってきたファンド筋による需給要因によるもので、需給悪が一巡すればリバウンドが期待できるとの見方もあるようだが、いまのところその兆しらしいものは見当たらない。

 反してカネへの選好が強い。ドルは独歩高が続き、24年ぶりの歴史的な円安・ドル高局面にある。さらに米国の長期国債への需要も強く、10年物国債利回りは、今年6月のピーク3.5%が、前日18日は2.9%台と下落(価格は上昇)している。ヘッジ資産のモノの地盤沈下が続き、安全資産の国債へのリスク回避が強まったことになる。「インフレはモノ」が、「インフレもカネ」へパラダイムシフト(規範変遷)を起こし、ニューノーマル(新常態)入りしたかのようである。

 当特集も、再三再四「インフレはモノ」のセオリーに言及してきたが、米国市場の動向をみるにつけ、ここはやはり「インフレもカネ」にいったんは軸足を移し新常態を試し備える時期にあるのではないかと思い至った。ということで今週の当特集は、「カネ」関連株、金持ち企業株、キャッシュリッチ株にアプローチしてみることにした。注目したのは、債券投資代わりの安全資産の東証プライム市場の高配当利回り株、よりディフェンシブなスタンダード市場の高配当利回り株、さらに別枠として堅実経営では国内有数の名古屋銘柄である。キャピタルゲイン狙いではなく、株価の下値硬直性に着目したインカムゲイン狙いと急がないことが肝要となるはずだ。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■9割超が対策を実施も、「WBGT」の認知は依然として低調  帝国データバンクの調査により、「熱中…
  2. ■「変身と成長」掲げ1300億円の積極投資、収益構造の転換図る  吉野家ホールディングス<9861…
  3. ■人手不足を補いながら顧客満足度の向上に貢献  シャープ<6753>(東証プライム)は5月20日、…
2025年6月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

ピックアップ記事

  1. ■選挙関連の「新三羽烏」の株価動向をウオッチ  足元では野党が石破内閣への内閣不信認決議案提出を見…
  2. どう見るこの相場
    ■米、イラン核施設を電撃空爆、緊張激化へ  「2週間以内」と言っていたのが、わずか「2日」である。…
  3. ■イスラエル・イラン衝突でリスク回避売りが優勢に  イスラエルのイラン攻撃を受け、13日の日経平均…
  4. ■ホルムズ海峡封鎖なら「油の一滴は血の一滴」、日本経済は瀬戸際へ  コメ価格が高騰する「食料安全保…
  5. ■トランプリスク回避へ、大谷・藤井・大の里株が浮上  『おーいお茶』を展開する伊藤園<2593>は…
  6. ■昭和の象徴、長嶋茂雄さん死去  またまた「昭和は遠くなりにけり」である。プロ野球のスパースター選…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る