【作家・吉田龍司の歴史に学ぶビジネス術】織田信長に見る「見切り千両」の極意

吉田

米相場の時代から伝えられてきた相場格言は、まさに先人の知恵の宝庫だ。この中で、売りを判断する格言として「見切り千両」というものがある。

例えば、ある株を買ったが、思惑に反して下落したとしよう。残念ながら相場を見誤ってしまったのである。

さて、もち続けるべきか、ナンピン(買い増して損失を平均化すること)すべきか、はたまた損切り(ロスカット。売って損失を確定すること)すべきか。

「見切り千両」に従えば、このケースでは売りが賢明である。見通しを誤ったのなら、素直に結果を受け容れて反省し、さっさと撤退するべきということだ。

ぐすぐずしていてはもっと下がり、大損を出す羽目になる。この大損を避けられれば、この「見切り」売りには「千両」の価値がある、のである。

ただ、見切り売りの決断は非常に難しい。そこで手本となる人物を紹介しよう。戦国の覇者、織田信長である。

元亀元年(1570)、信長は越前朝倉氏を討つため北陸へ遠征し、金ケ崎城(福井県敦賀市)という城に陣した。ところがそこに、妹婿である近江の浅井長政が謀叛したという報が届く。このままでは北の朝倉、南の浅井に挟み撃ちである。信長は戦局を見誤ったのだ。

徹底抗戦するか否かの場面で、信長は即座に撤退を決意した。そして、家臣の秀吉に後を託し、ほとんど身一つで京へ向け逃げたのである。迅速果敢な決断だった。見通しを間違えたら直ちに反省し、直ちにロスカット。素晴らしい決断力というほかない。

天正10年(1582)本能寺の変でもこの損切り感覚は健在であった。『信長公記』によれば、謀叛を知った信長は側近の森蘭丸に「誰のしわざか」と問うた。蘭丸が「明智殿です」と告げると、信長は「是非もない」と言ったという。

信長は明智光秀という存在を見誤っていたのである。

あの光秀なら万全の準備をして謀叛したであろう。ならば自分の命運は尽きた。今さらじたばたしても無駄。だから「是も非もない」――これは究極の損切り格言だ。

信長は潔く反省し、自分の命を粛々とロスカットした。その潔い死に様は、後世の名声と引き替えの「見切り千両」といえるのではないか(作家・吉田隆司=都留文科大学出身)。

本日のアクセスランキング

  1. 常陽銀行、高推論型のGoogle生成AI「Gemini 2.5 Pro」導入、本部業務の効率化へ
  2. データセクション、液体冷却対応の次世代AIデータセンターを印西に構築へ
  3. 年金積立金、運用資産277兆円に拡大、収益率5.52%で過去最高水準
  4. NTT、SAR衛星で道路陥没予兆を世界初検出、衛星電波で道路空洞も把握
  5. メディネット、インド発再生医療製品「Stempeucel」導入へ、国内独占開発権のオプション契約を締結
  6. IHI、沖縄電力から13万kWGTCC受注、牧港火力で次世代電源整備へ
  7. ビジネスブレイン太田昭和、年間配当は44円増の133円、株主優待も拡充
  8. 明治など、ワクチン抗体価が高い人の腸内環境を解明、ヨーグルト習慣と高抗体価に関連
  9. I-ne、株主優待を最大2万円に拡大、デジタルギフト導入し初の配当も実施
  10. アクセルスペース、補助金4億8700万円を営業外収益に計上、汎用衛星バス開発支援

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■国際特許分類や元素リストを用いて多様な解決策を自動生成  AGC<5201>(東証プライム)は1…
  2. ■Newton・GR00T・Cosmosを軸にロボット研究を高速化  NVIDIA(NASDAQ:…
  3. ■700億パラメータ規模の自社LLMを金融仕様に強化、オンプレ環境で利用可能  リコー<7752>…
2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

ピックアップ記事

  1. ■鶏卵高騰・クマ被害・米政策転換、市場が注視する「3素材」  2025年11月、師走相場入りを前に…
  2. ■AI株からバリュー株へ資金移動、巨大テックの勢い一服  「AIの次はバリュー株」と合唱が起こって…
  3. ■日銀トレード再び、不動産株に眠る超割安銘柄  今週の投資コラムは、政策金利据え置きの投資セオリー…
  4. ■日銀据え置きでも冴えぬ不動産株、銀行株が主役に  株価の初期反応が何とも物足りない。10月30日…
  5. ■造船業再生へ3500億円投資要望、経済安全保障の要に  日本造船業界は、海上輸送が日本の貿易の9…
  6. ■高市政権が描く成長戦略、戦略投資テーマ株に資金集中  「連立政権トレード」は、早くも第2ラウンド…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る