
■「異次元緩和」からの出口戦略、緩やかなペースで実施
日本銀行は、長年にわたる大規模金融緩和政策の出口戦略として、保有する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の市場売却を開始する。これは、肥大化したバランスシートを縮小し、市場の過度な日銀依存を解消することで、金融政策と市場機能の正常化を図るものだ。
売却は市場への影響を最小限に抑えるため、年間取引額のわずか0.05%程度という、極めて緩やかなペースで進められる。これにより、株式や不動産市場の急激な混乱を回避し、市場の安定と正常化を両立させることを目指していく。
■「日銀プット」の後退と投資家の意識変化
今回の売却開始は、市場規模への直接的な影響は限定的だが、市場参加者の心理に大きな変化をもたらす可能性がある。これまで日銀のETF買い入れは、市場の「下支え役」として投資家に安心感を与えてきた(いわゆる「日銀プット」)。その心理的な支えが徐々に薄れることで、投資家は本来のリスク評価に基づいた投資行動を迫られ、市場のボラティリティ(価格変動幅)が高まる可能性がある。
一方で、日銀の存在感が低下することは、企業の自社株買いや民間投資家による資本効率改善の取り組みを促し、中長期的な市場の自律性向上につながるという期待も高まっている。
■J-REIT売却が不動産市場にもたらす効果
J-REITの売却も不動産市場に影響を及ぼす。規模は小さいものの、流動性が低い一部の銘柄では価格下落リスクが指摘される。しかし、売却で得た資金が新規の不動産取得や自己投資口の買い戻しに回れば、物件市場の活性化や優良物件の流通促進につながる可能性もある。
さらに、証券化市場と実物不動産市場の連携が深まり、「物件市場と金融市場」の連動性を強める効果も期待されている。
■出口戦略の第一歩、市場動向を慎重に見極め
今回のETF・J-REIT売却は、短期的には大きなリスクはないものの、長期的には投資家のリスク認識や価格形成に構造的な変化を促す歴史的な第一歩だ。日銀の市場における存在感が低下していく中で、今後の市場動向を注視しながら、柔軟に売却ペースを調整していく方針である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)