【小倉正男の経済コラム】新型コロナウイルス「クライシス・マネジメント」がないという危機

小倉正男の経済コラム

■ここまで来たら慌てるな

 ウイルスで経済が止まるなど、これまで経験したことがない。

 新型コロナウイルスの影響は計り知れない。ただ、どこかでいずれ落ち着くのは間違いない。いまはそう思って慌てないことだ。

 半導体など電子部品、半導体関連の製造装置、工作機械などの中国向け輸出が止まっている。米中貿易戦争の長期化に続いて新型コロナウイルスの問題で中国経済が停止している。これでは当面どうしようもない。

 エンターテインメントなど内需産業も、最近では中国をマーケットにすることがトレンドである。当面は音楽&ダンスユニットのコンサート、2・5次元ミュージカルなど人気のコンテンツが影響を受ける。中国公演が厳しいだけでなく、国内公演もストップ状態になりかねない。

 製造業もサービス産業も中国経済への依存度は相当に大きい。そのリスクには向き合う必要がある。ただ、いまは仕方ない。製造業もサービス産業もいずれは平常に戻る。そこを待つしかない。

■「クライシス・マネジメント」がないという危機

 まずは「クライシス・マネジメント」である。企業もそうだが、国も「クライシス・マネジメント」は得意ではない。
 しかもウイルスとの闘いなど思ってもいなかった事態だ。おそらくウイルス以外でも「クライシス・マネジメント」はほとんど考えていなかったのではないか。

 例えば、大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の問題でいえば、日本人乗客を一般の電車で帰宅させたり、23人を必要な検査をせずに下船させたりとミスが目立っている。
 これは取り組みの甘さが露呈したもので、初歩的なミスであり論外な事態といわれても仕方がない。

 「クライシス・マネジメント」では、最初に情報を収集するのが基本だが、緊急時に情報を収集するのは思うほど簡単ではない。
 しかも正確な情報を迅速に収集するというのは困難な仕事だ。そのうえで情報を冷静に分析して「最悪の想定」をして行動しなければならない。

 しかし、人間は何とか希望にすがって、最善の想定に逃げる傾向がある。したがって最悪の想定というのもできるようでできない。
 「初期消火」が基本だが、これも手遅れになるのがいつものことだ。消火を誤れば大火事にしてしまうことになる。

 「クライシス・マネジメント」の要諦というのも簡単なようで簡単ではない。「クライシス・マネジメント」では、トップダウンで行うのが基本である。しかし、これもなかなかできない。
 だから初歩的なミスやエラーばかりで、散々なことになる。これこそが危機である。

■ウイルスとの闘いは一種の「戦争」

 いまや人々が集まるものは感染などの可能性があるということで、当面のところ取り止めになるケースが増えている。企業内のミーティングや会議なども中止・延期が相次いでいる。飲み会なども自粛ということになる。

 対外的な事業発表会なども続々と中止されている。就職の企業説明会などまでいまは開催が見送られている。

 おそらく2,3年先を見れば、こうしたミーティングはすべてパソコンやケイタイ(インターネット)で行われることになる。いわば、リアルではなくバーチャルな形でミーティングが行われ、リアルと同じく質疑や意見も交換されるようになる。
 今回の「学習」「経験」から、ミーティングや仕事のやり方なども変わる契機になるのかもしれない。

 野球も競馬も、それに大相撲まで無観客ということでなんとも凄まじいものだが、これもいまは仕方がない。新型コロナウイルスとの闘いは一種の「戦争」と思って、いまはしばらく我慢するしかない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシス・マネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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