【小倉正男の経済コラム】第三者委員会の「独立性」 弁慶の勧進帳か

■第三者委員会の「独立性」とは

 「モーニングショー」(テレビ朝日)で企業の不祥事などで度々登場する第三者委員会の「独立性」について議論があった模様だ。

 創業者・前社長の“性加害問題”に揺れるジャニーズ事務所は、外部専門家を任命して「再発防止特別チーム」を設置させている。コメンテーター(弁護士)は、その再発防止特別チームは「第三者委員会」にあたるという認識を示した。

 「(再発防止特別チームは)ジャニーズ事務所から、お願いされてやるので、報酬はジャニーズ事務所からやるので・・・、独立性うんぬんっていう話もあるようなんですけども・・・」

 再発防止特別チームについて、「独立性」に疑問を呈する動きがあることに触れたということである。だが、「一般的な第三者委員会も企業の方がお金を払って『調べて下さい』って言ってやって、外部の方たちがガバナンスの点を指摘する」と。通常行われていることで、「独立性というのは、私は担保されていると思っている」と解説している。

■初導入の社外取締役の「独立性」

 第三者委員会というものも疑い出せば切りがない。“ないものをある”ように見せる、いわば「弁慶の勧進帳」のように思われている方も少なくないのではないか。「第三者」「独立性」とはいうのだが、外部専門家を任命し報酬を払うのは、不祥事を起こした企業である。しかも、通例ではその報酬たるや相当に高いものを払っている。

 ジャニーズ事務所は、「再発防止特別チーム」の設立と並行して、「社外取締役」を導入している。これも外部専門家を選んだというわけだが、(侍ジャパンなど)プロ野球コーチなどが入っている。再発防止特別チームの「独立性」がうんぬんされるとすれば、社外取締役の「独立性」も議論される必要がある。

 再発防止特別チームの人選にしても、役員会で決定される。社外取締役は役員会に出席するわけだが、社外取締役に「独立性」がなければ、社長というか企業の言いなりですべてが決まる。それでは社外取締役は、“お飾り”にすぎないということになる。そうしたことでは、お金をかけて“ガバナンスがない”という企業体質を覆い隠して厚化粧するようなことになりかねない。

■ガバナンス=チェック&バランスは機能しているか

 第三者委員会にしても社外取締役にしても、不祥事を起こした企業が外部専門家を任命して報酬を払うわけである。外部専門家は、自らを任命し報酬を払うという権力に対して、「第三者」として、もっといえば「独立性」を担保できるか。

 第三者委員会が日本でいま通常に行われているのは確かである。だが、「独立性が担保されている」とするのは、通常というものを是認しすぎることになる。社外取締役も同様に通常に行われている。だが、通常に行われているから「独立性」が担保されているとは言い切れるわけではない。

 「第三者」「独立性」というのは、権力に対してということになる。権力に対するチェック&バランスは、「第三者」「独立性」がないと機能しえない。「コーポレート・ガバナンス」があるかないかは、権力に対するチェック&バランスが機能しているかどうかにかかっている。

■第三者委員会、社外取締役とも「独立性」がなければ

 ともあれ多くの人が視聴するワイドショーで、企業不祥事にいつも登場する第三者委員会の「独立性」、さらにはガバナンスが論じられたことはかなり画期的にみえる。

 「三権分立」「医薬分業」――、権力が一極に集中しないようにチェック&バランスを効かせてきたのは歴史の知恵ともいえる。「三権分立」は、権力に対する人々の猜疑心は深いわけでデモクラシーとともに生まれてきている。

 「医薬分業」も医者と薬剤師を分業させることでチェック&バランスを確立した歴史を持っている。中世、毒殺事件が相次いだことが「医薬分業」の契機となっている。神聖ローマ帝国の王が自らの毒殺を恐れて、主治医の処方薬をチェックさせたことが始まりといわれている。(日本の中世でいえば、殿様の毒見役のようなものか。これは毒以外に食中毒、腐敗など安全性をチェックする役割だったようだが。)

 企業社会にもデモクラシーの導入、権力へのチェック&バランスが求められている。第三者委員会、社外取締役とも「独立性」がなければ、企業にガバナンスは確立されていないということになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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