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【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領の「相互関税」で押し寄せるスタグフレーション 行き着く先は「世界窮乏化」
- 2025/5/7 08:10
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■「関税戦争」懸念から米国はマイナス成長に転落
トランプ大統領の言動は相変わらずである。政権発足から100日を超えたが、それを記念して2時間に渡る「賞賛閣議」を行っている。その閣議はメディアに公開され、メディア(報道陣)が見守るなかで閣僚一人一人がトランプ大統領を賞賛する発言をしている。恥ずかしいというか、呆れるというか、という所業にみえる。
トランプ大統領は、自身がローマ教皇に扮した画像をSNSに投稿している。それに先立つフランシスコ教皇の葬儀では、トランプ大統領は青いスーツ、青いネクタイで出席した。カトリック教徒からすれば「不敬」、あるいは「冒涜」に当たる行為になりかねない。2016年にメキシコ国境の壁をめぐる発言で確執があったといわれている。だが、トランプ大統領はやたら挑発的で無暗に敵をつくっている。
一方、米国の第一四半期(1月~3月)GDP(国内総生産)はマイナス0・3%となっている。22年第一四半期以来、3年ぶりにマイナス成長となっている。バイデン政権最後の前四半期は2・4%成長だった。第一四半期のマイナス成長は、トランプ大統領の「関税戦争」への懸念が反映されている。
米中の「関税戦争」激化の兆しから駆け込み輸入が大幅増に転じた。輸入はGDPを押し下げる要因となる。そのうえGDPの70%近くを占めている最大要因の個人消費に陰りが出ている。前四半期の個人消費は順調だったが、第一四半期の消費は「関税戦争」の先行き懸念からにわかに減速している。
■マーケットの「米国売り」はまだ解除されていない
トランプ大統領の支持率だが、政権発足100日のものとしては歴史的な低迷ぶりとなっている。トランプ大統領のメディアでの発言の頻度は突出している。しかし、支持率はデータ的には過去最低を更新している。
ワシントン・ポストはトランプ大統領の支持率は39%、不支持率は55%と報じている。「関税」の支持率は34%となっている。トランプ大統領寄りといわれるFOXニュースの調査でも「インフレ」「関税」といった経済分野では33%という低い支持率しか得ていない。世論はトランプ大統領の経済政策には「懐疑」を強めている。
マーケット、株式・米国債・通貨は「懐疑」どころか、トランプ大統領への信認はほとんど喪失している。
4月初めにトランプ大統領が「相互関税」を発表した時点では、NY株価の大暴落と同時に米国債など債券、通貨ドルの下落という「米国売り」に見舞われている。トランプ大統領が「相互関税」発効13時間後に豹変して「90日間延期」を表明しなければ、米国発の“金融危機”に突入しかねない局面だった。(4月前半の3日間で世界の株式市場は時価総額10兆ドルを消失している。この10兆ドルという巨額も歴史に残る消失である。)
株式・債券・通貨の同時下落(トリプル安)は、マーケットがトランプ大統領の経済には「懐疑」を通り越して、「弾劾」を突き付けていることを意味している。マーケットの「米国売り」は現状でも解除されていない。10年国債利回りは4・34%と高止まりしている。マーケットはいまだトランプ大統領の経済には身構えて最大限の警戒を怠っていない。
■トランプ大統領の「関税戦争」の行き着く先は「世界窮乏化」
トランプ大統領の次の100~200日の支持率を決めるのはひとえに経済にかかっている。
トランプ大統領の「関税戦争」は、日本など個別の関税交渉=ディールに入っているが、これとて簡単ではない。トランプ大統領は、一律の10%関税、鉄鋼・アルミ、自動車・同部品の25%関税は交渉対象から外すとしている。「相互関税」、日本のケースでいえば14%分の関税引き下げのみを交渉対象とすると切り替えてきている。14%分の関税はゼロにはしないと条件を上げている。ディールだから“脅し”もありで、何ともいえないがこれでは交渉など進めようがない。
自動車・同部品に賦課している25%関税が極致だが、米国で自動車を売りたいのなら「米国でつくれ」(トランプ大統領)。すなわち、米国に工場を移転して米国に雇用をつくれということだ。これは日本を例にとれば、米国から“失業の輸出”を受諾することにほかならない。絵に描いたような「近隣窮乏化」の極致である。トランプ大統領はこれを世界のほぼ全ての国と個別交渉を行うとしている。行きつく先は「世界窮乏化」ということになる。
「関税で米国は豊かになる」、トランプ大統領が語っているように米国は「黄金時代」を迎えられるのか。米国の消費者は関税により無意味に高くなった商品を買わされるだけのことになりかねない。個人消費が低迷すれば景気後退が現実のものになる。インフレとデフレが同時進行するスタグフレーションが押し寄せてくる。「米国売り」が指し示しているのは、そうした馬鹿げた近未来である。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)