【どう見るこの相場】自己株式取得銘柄は勝率5割でも株価の専守防衛から反転攻勢へチャンス着々

■トランプ関税が引き金?異例の自己株買いラッシュの内幕

 さしものの自己株式取得ラッシュも、決算発表のピークアウトとともに手仕舞いとなったようだ。前週末16日は、決算発表会社が15社と激減したのに連れて、自己株式取得発表会社もわずか3社、自己株式取得設定枠も2億円強にとどまった。これが前週週明けの12日からは連日、自己株式取得会社が30社超、40社超と急増し、15日には合計の設定枠が約1兆3000億円にも達し、12日から15日までの4日間の累計設定枠が2兆2700億円を超えた。それに比べれば、まさにパッタリである。

 自己株式取得ラッシュにはそれなりの理由がある。「トランプ関税」により景気、インフレ、為替の先行き不透明感が強まり、株価の乱高下が激しくなり自社株の株価防衛意識が高まったのが第一である。自己株式取得は本来、資本効率を向上させることによって株主価値を高める株主への利益還元策であり、付随して株式需給を好転させ自社株を割安とアピールするアナウンス効果も期待されている。昨今は、これに加えて政策保有株縮減や親子上場問題解消のためなどの受け皿つくりとしての流用も盛んである。しかし決算発表時に今期業績の減益転換を予想する上場会社が多数にのぼり、トランプ関税の影響を合理的に算定することは不可能として、今期の業績ガイダンスを未定とした会社まで出ているのである。業績不調で株価が売り込まれるのを想定し、未然に防ぐ株価防衛策として事前に自己株式取得の下準備をしたというのが内実だろう。

■自己株買いは株価の盾となるか?キヤノン・丸井Gの事例検証

 では、自己株式取得に本当に株価防衛効果があるのだろうか。これはしっかり検証する必要がある。ということで前週末16日に自己株式取得の終了を発表したキヤノン<7751>(東証プライム)と丸井グループ<8252>(東証プライム)の2社の例をみてみることにした。キヤノンは、今年3月13日に2600万株(発行済み株式総数の2.8%)、取得総額1000億円の自己株式取得を取締役会決議し、5月16日までに2280万3500株を取得し、取得総額は999億9957万円に達し、取得期限の来年1月30日を前に取得を終了した。

 この間、キヤノンの株価は、トランプ政権の相互関税発動による世界同時株安で年初来安値3893円に急落し、さらに今12月期業績の下方修正もあったが4787円までリバウンドしており、自己株式取得の平均買いコスト4385円からも十分に株価防衛効果を発揮したことになる。一方、丸井Gの平均買いコストは2472円で自己株式取得の進捗とともにジリジリ下値を切り上げ、自己株式取得終了に先立ってまた新たな自己株式取得と自己株式消却、今3月期の連続増配などの発表も続いて窓を開けて年初来高値3100円まで買い進まれ、株価防衛効果を発揮した。

■短期か長期か?自己株買いの真価が問われる時

 すべての自己株式取得会社が、この2社と同様な結果となるとは限らない。取得枠を設定しながら実際に市場買い付けをしないケースや取得株式数が、業績や配当の悪化予想をカバーするには十分でないケースもままあるからだ。前週にラッシュとなった自己株式取得会社でも、発表翌日の株価が勝ち(上昇)か負け(下落)かを精査すると、14日は24勝21敗、15日は19勝22敗となり勝率は5割にとどまった。キヤノンや丸井Gの例からも明らかなように自己株式取得効果は、短期より取得が徐々に進行する中長期でより明らかになるのかもしれない。

 全般相場も、この自己株式取得効果に期待することは大である。トランプ関税は、英国、中国と関税交渉が一応の合意に達したが、わが日本は、これから3回目の交渉に入るところであり、さらに予定されている日米財務大臣協議へでは円安・ドル高是正に言及されることも懸念されているのである。日経平均株価は、米国の相互関税発動前の今年3月の3万8000円台水準まで戻してきたが、なお予断は許さないはずだ。かつて相場波乱時に下支え効果を発揮した日本銀行のETF(上場投資信託)買いが、金融政策正常化で姿を消した現在、唯一残った株価の専守防衛役としての自己株式取得にかかる期待はその分、大きくなる。発表ラッシュとなった自己株式取得銘柄のうち、発行済み株式総数に対して取得比率の高い銘柄、PBRが1倍を割っている銘柄のほか、もちろん取得総額が大きい銘柄などを反転攻勢の露払い役としてマークするのも一法となりそうだ。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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