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【小倉正男の経済コラム】「7月利下げ」でトランプ大統領VSパウエル議長の激突再燃か、非農業雇用は予想外の大幅増
- 2025/7/6 07:29
- 小倉正男の経済コラム

■非農業部門雇用者数は事前予想に反し大幅に増加
米国の雇用だが、全体としては依然として強い。6月の非農業部門雇用者数は前月比14.7万人増、事前予想の11万~11.4万人増を大幅に上回る結果となっている。失業率は4.1%(前月4.2%)と改善をみせている。
雇用統計発表(7月3日)直前に開示されたADP雇用統計では6月の雇用は前月比マイナス3.3万人と2年ぶりのマイナスとなっていた。先行指標がマイナスだったため雇用統計も弱いデータになると懸念されていた。ところが、事前予想とは逆に非農業部門雇用者数は強いものとなった。
だが、雇用の中身では製造業はマイナス、小売りなども冴えない。「トランプ関税」の影響を直接受ける民間ビジネス分野の雇用は低調となっている。トランプ大統領の関税政策による先行き不確実性からビジネス分野の雇用は軟調に転じている。
政府の雇用では、連邦政府が政府効率化省(DOGE)を使って年初から7万人近い職員の大量解雇を行っている。だが、一方では州政府が医療ヘルスケア・社会支援分野で大幅に雇用を増やしている。6月の非農業部門雇用数増加を牽引したのは医療ヘルスケアということになる。
事前には雇用が堅調であるとすれば、トランプ大統領の不法移民など移民排除の影響があるのではという見方も出ていた。この見方はまだ確立されたものとはなっていない。ともあれトランプ大統領の連邦政府はメディケイドなど低所得者層向け医療・社会支援予算削減を実施しているが、州政府は反対に医療・社会支援の雇用を拡充している。
■「トランプ関税」の駆け込みの反動か、消費、住宅建設が低迷
GDP(国内総生産)の約70%を占める個人消費にも陰りが見え始めている。5月の個人所得はマイナス0.4%、個人消費支出はマイナス0.1%(ともに前月比)となっている。
「トランプ関税」の直撃を回避するための駆け込み需要の反動で自動車・同部品などへの需要が低下している。このまま個人消費が低迷するようなら景気の先行きは厳しいものになりかねない。
住宅着工では5月は125.6万件、前月の139.2万件から9.8%の大幅反落。資材高による価格上昇で集合住宅の在庫増が顕著となっている。戸建て住宅も伸び悩んだ。住宅需要の先行きを示す建築許可件数も低水準に陥っている。これも「トランプ関税」による駆け込み着工の剥落なのか。住宅ローン金利の高止まりも影響しているとみられている。
■「7月利下げ」でトランプ大統領VSパウエル議長の対立激化
6月の非農業部門雇用者数の増加で7月利下げは一般に後退したといわれている。7月29~30日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されるが、利下げは「時期尚早」となる可能性が高い状況となっている。
しかし、トランプ大統領としては、何としても利下げを早期かつ大幅に実現したいという立場を露骨に表明している。トランプ大統領は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長を「遅過ぎる」「愚か者」「解任すべきだ」などと罵倒し続けている。
「米国の金利は1%以下であるべきだ」。米国の政策金利は現状4.25~4.50%、トランプ大統領は過激な主張を繰り返している。
ベッセント財務長官なども「FOMCが次回会合で政策金利を引き下げないのであれば、9月に大幅利下げを実施することになるだろう」とFOMCの判断に疑問を呈し利下げを要請している。「トランプ関税」による物価高騰が表面化していないことを根拠としている。
パウエル議長は、“トランプ大統領による関税など大幅な政策変更がなければ利下げを実施していただろう”と語っている。「トランプ関税」の影響は、駆け込み輸入在庫が一掃される7~8月以降に大幅値上げとなって顕在化する可能性がある。パウエル議長は、あくまでこれらの物価データを踏まえて政策金利を判断するという姿勢を堅持している。
トランプ大統領のFRBの金融政策への介入は、政治権力のチェック&バランスなどは全く不要とする主張である。中世の王様よろしくトランプ大統領がすべてを決めるというものになる。金融政策の是非はもちろん重要である。自分が全て正しくチェック&バランス不要、権力の抑制が働かない「王政」では、ヒトもおカネも“米国離れ”を起しかねない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)