【小倉正男の経済コラム】パウエルFRB議長はマーケットの乱高下をどう見ているのか?

パウエル議長はマーケットの不安に柔軟性を示す

アップルの下方修正は景気のせいか商品のせいか

 アメリカの動きが年初から慌ただしい。

 2日には、アップルの2019年度第1四半期決算の下方修正が明らかにされた。ティム・クックCEOが投資家に宛てた手紙で、第1四半期売り上げを890億ドルから840億ドルに下方修正した。ただ、粗利益率は38%をかろうじて維持、なんという高い利益率か。

 クックCEOは、下方修正の理由を、新興国では中国市場でiphoneの売れ行きが良くないといったニュアンスを語っている。米中貿易戦争など緊張関係の高まりの影響を受けている、というのである。

 ただし、一方ではiphoneが他の先進国でも期待ほど買い換えが進まなかったことを認めている。価格が高い割には、所有するステータスが下がり、それほど機能が上がっていない。商品政策に問題があったということになる。

 トランプ大統領は、アップルの下方修正に際して「(アップルはアメリカから恩恵を受けているのだから)アメリカに工場をつくるべき」と持論を繰り返した。製造拠点を中国からアメリカに移転すること再び要請している。

パウエル議長はマーケットの乱高下を考慮

 4日には、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が、「マーケットは世界景気を不安視しており、金融政策は柔軟に見直す用意がある」と発言した。
 2019年は2回の利上げが想定されているのだが、“必ずしも利上げ一辺倒ではない”という柔軟性をみせたことになる。

 同じ4日に雇用統計が発表されており、非農業部門就業者数は31万2000人の大幅増を記録した。失業率は4。4%、平均時給は前年同期比3。2%増となっている。アメリカの景気は絶好調である。

 アメリカの実体景気は絶好調を示している。いや、絶好調すぎるぐらいだ。しかし、株式マーケットのほうは昨年末から乱高下しており、金利上昇を嫌気している。マーケットは先行きを睨んでおり、世界景気が下振れすることを懸念しているわけである。

 昨年末など金利上昇を嫌うトランプ大統領は、パウエル議長の解任を議論する形で圧力をかけている。
 「(暴落している)マーケットを感じろ」
 トランプ大統領は、パウエル議長に株式市場が発しているシグナル(警告)をみろ、と注文を出している。

 パウエル議長の発言は、トランプ大統領を含めたマーケットが懸念しているダウンリスクを注視して、金融政策運営で考慮する姿勢をみせたことになる。ただし、2019年の世界景気動向によるのだが、これが年初の一時的な柔軟性なのか、そうではないのかは不明である。

ともあれ今回は穏当な判断による発言か

 パウエル議長によるトランプ大統領をはじめとするマーケットの不安への注視、あるいは悪くいえばスリ寄りをどう判断・評価するべきか。

 株式マーケットは、良くも悪くも過剰に振れる面がある。一般的には、米中貿易戦争にしても、利上げにしても、景気に良いことはではない。
 マーケットは極端に動く。マーケットはともかくとして、大統領が金融政策に異論を差し挟むのは正常な姿ではあり得ない。

 実体のほうは、米中貿易戦争にしても交渉で一転して解決に向かう可能性がないわけではない。景気が良すぎてインフレ懸念などが出ているならば、むしろ利上げが必要になる。景気が良すぎるのなら、利上げを呼ぶのは自然ということになる。

 今回のパウエル議長の発言は、マーケットの不安を落ち着かせる効果を狙ってという面があったとみられる。大人というか、人間味を感じさせ、穏当な判断による発言かと思われる。

 ただ、先々にこれがクセになるようでは何のためのFRBかということになる。言わずもがなだが、大統領やマーケットの要望や懸念といった「空気」に振られるようでは、FRBの独立性が問われることになりかねない。

 2019年は年初から悲観論に覆われている。だが、年初ぐらいは少し明るい兆しを見つけたいものであるのも事実である。
 いまはともあれ、北京での米中通商協議で双方が受け入れ可能な合意に接近できるのかどうか。このあたりで方向性が出れば、悲観論を少しは一掃できるのだが・・・。

(「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て現職。2012年から当「経済コラム」を担当。東経オンライン、国際商業オンライン、サンケイIRONNAなどにコンテンツ執筆)

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