【小倉正男の経済羅針盤】中国のバブルは「200年に一度のスケール」

■設備過剰・在庫過剰・人員過剰・借金過剰

 もう10年以上も前のことである。トヨタ自動車本社工場で、張富士夫社長(=当時)にインタビューする機会があった。

 トヨタに入社した頃、張富士夫氏は、先輩社員からこんな話を聞かされたというのである。
 「戦後はずっと会社はいたるところトラックなど在庫の山だった」

 トヨタの工場内の敷地や通路は、売れないクルマで埋まり、どうにもならない状態だった。
 いつ潰れても不思議ではない局面だったわけである。

 「会社というのは、(在庫を抱えて)売れないと潰れるものだ・・・」。張富士夫氏は、そう思ったそうである。率直なもの言いなのだが、張富士夫氏が語ると深みがある。
 トヨタの苦難期の風景である。戦後は、不景気でトヨタですら大変だったに違いない。

 メーカー・製造業というものは、つくりたがる。しかし、需要は限定的だから、つくり過ぎれば、売れ残り在庫を抱えて苦しむことになる。売り上げ=おカネは入ってこない。
 生産設備過剰・在庫過剰・人員過剰・借入金過剰――といった状態になる。

■「親方五星紅旗」=需要はなくてもつくれるだけつくる

 いまの中国がその状態だ――。中国は、鉄鋼、セメントなどで世界の生産量の半分以上を占めている。生産シェアは巨大すぎる。しかし、世界市場の販売シェアはそう大きくはない。

 鉄鋼では、中国の2年間の生産量は、アメリカが20世紀中に生産した量に匹敵する、というのである。セメントでは、中国の3年間の使用量は、アメリカが20世紀の100年間に使用した量を軽く上回っている。

 つくれるだけつくる――。しかし、それで需要は・・・?そんなことは考えたことはなかった・・・。誰かが買ってくれるはずだろう――。ここは中国だから。

 「社会主義市場経済」というが、根が社会主義だから、目標を立てての計画生産から抜け切れない。国や地方政府のお墨付きをもらえば、つくれるだけつくる。
 「親方日の丸」、いや「親方五星紅旗=共産党」である。国・地方政府の経済=社会主義とはそうしたものである。共産党の体質・DNAは、そう簡単には変わらないし、変われない。

 売れないは、借金は増えるは――、それがいまの中国の国有企業の実体である。売れたことになっているが架空売り上げだったり、回収できない売り上げだったり・・・。

■「200年に一度の不況」ならラッキーか

 中国のバブルは、市場経済ならぬ社会主義市場経済だから、市場の調整が利かない。崩壊しているのに、まだまだ膨張し続けている。中国は、市場という「神」を認めてはいない。

 始末に困る――。「破裂」しなければならないのに、「破裂」を避けて膨張している。それだけにこの先は、大変なことが起こりかねない。

 リーマンショックが「100年に一度の不況」とするなら、中国のバブル破裂は「200年に一度の不況」をもたらすかもしれない。いや、むしろ「200年に一度の不況」程度ならラッキーというべきか。

 中国は、そうなれば社会主義に戻るか、市場経済=資本主義に走るか、どちらかしかない。おそらくというか、これは市場経済=資本主義に行くしかない。国もいくつかに分裂するのではないか。

 共産党支配下の史上空前のバブル・バブル破裂を経て、中国は市場経済=資本主義に移行する――。しかし、そこまで行くにはまだまだ紆余曲折がある。
 世界経済を巻き込んだ「五星紅旗・王朝末期」のドタバタ劇に付き合わなければならないのが、「いまの時代」ということになる。

(経済ジャーナリスト 『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数 東洋経済新報社編集局・金融証券部長、企業情報部長,名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事など歴任して現職)

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