
■最高値から一転下落、米金融政策の不透明感を映す展開に
暗号資産(仮想通貨)の代表格であるビットコインは2025年8月、円建てで一時1800万円台、ドル建てで12万ドルを超える過去最高値を更新した後、一転して急落する荒い値動きとなった。同月中旬以降は1600万円台での推移が続き、市場では調整局面入りしたとの見方が広がっている。
この価格変動の背景には、米国の金融政策の先行きに対する不透明感と、根強いインフレへの懸念がある。8月22日(日本時間23日)に注目されたジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演が大きな焦点となった。講演前はタカ派的な発言への警戒感からリスク資産を売る動きが先行した。しかし実際の講演は、インフレ抑制の姿勢を維持しつつも労働市場の需給バランスの特異な状態や下振れリスクに言及するなど、市場が懸念していたほどの強硬な内容ではないと受け止められた。
これにより9月の利下げ期待が一部で再浮上したものの、パウエル議長はあくまで「データ次第」との姿勢を崩しておらず、先行きは依然不透明である。こうした状況が相場の方向感を欠く一因となっている。また講演前に発表された7月の米生産者物価指数(PPI)が市場予想を上回ったこともインフレ再燃への懸念をくすぶらせ、投資家心理の重しとなっている。
■大口投資家(クジラ)の買いは継続、市場心理の悪化が下落要因か
一方で、今回の価格下落は暗号資産市場で「クジラ」と呼ばれる大口保有者による大規模な売りが直接の原因ではないことがデータから示唆されている。
代表的な大口保有企業である米マイクロストラテジー社は、価格が下落した8月18日に4億5100万ドル相当とされる430BTCを追加購入するなど、むしろ買い増しの姿勢を続けている。また日本のメタプラネットも8月18日に775BTC、25日に103BTCを追加取得するなど断続的に購入している。
これらの事実は、長期的視点を持つ大口投資家の買い意欲が衰えていないことを示している。しかしマイクロストラテジー社の購入ペースが例年に比べやや鈍化しているとの指摘もあり、これまで相場を牽引してきた機関投資家の一部が利益確定に動いた可能性も否定できない。こうした動きが短期投資家の不安を煽り、連鎖的な損切り売りを誘発したことで市場心理全体が悪化したことが、今回の一時的な急落の要因に近いと考えられる。
■今後の焦点は米経済指標、不安定な地合いは継続
現在の暗号資産市場は、米国の金融政策や主要な経済指標の動向に極めて敏感に反応する不安定な地合いが続いている。
ジャクソンホール会議を通過した今、市場の焦点は9月5日に発表される米雇用統計や、11日の消費者物価指数(CPI)に移っている。これらの結果がFRBの次の一手を占う上で重要な判断材料となる。
ビットコインが調整局面に入る一方、イーサリアムは上場投資信託(ETF)への期待感などを背景に堅調に推移し、一時4400ドル台(約64万円)を維持するなど資産ごとの温度差も見られる。例年8月は市場参加者が減り、相場が軟調になりやすい「夏枯れ相場」のアノマリー(季節性)もあり、現在は買い材料と売り材料が拮抗する状況である。当面は米国の重要経済指標の結果と、それを受けた機関投資家の資金フローの変化を見極める展開が続く見通しである。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)